不可避の惨劇。コロナ後に鮮明化する米中対立と新興国の破綻連鎖

 

それが鮮明化するのが5月28日に全人代で採択された【香港国家安全法】の制定です。最新の分析では、早ければ6月末までの制定を目指すとのことで、つい先日も香港行政長官のキャリー・ラム女史を北京に呼びつけ、方針に対する全面的な支持を取り付けたことからも分かります。

9月に香港立法府の選挙が行われますが、そこで香港の独立を目論むような民主派(背後にはアメリカ)が勝利するような事態を避けるため、アメリカでコロナ感染と国内に広がる人種差別に対するデモが激化している隙に中国共産党による香港支配を固定化してしまおうという狙いが見えます。

【香港国家安全法】の制定に対しては、アメリカも欧州各国も非難を強めていますが、アメリカの対抗策が激化する中、欧州各国は懸念を示しつつも、欧州の経済発展モデルに食い込んでしまっている中国を今失うことが出来ないというジレンマゆえに、中国の香港対策についてアメリカの報復措置に追随することはせず、あえて距離を置いています。

真偽のほどは分かりませんが、フランスの大統領外交顧問曰く「フランス政府としては、香港問題には口を出さない」方針が報じられました。もし本当だとしたら、確実に米・欧の同盟内での分離が鮮明化してきています。

中国はこの“分離”に付け込み、アフターコロナの国際情勢における影響力の拡大を今、狙っているものと思われます。それがWHOを巡る米中対立において、中国による支配を問題視しつつ、積極的な行動を取らない欧州各国の中途半端な態度にも見て取れます。

中国は一帯一路政策を通じた途上国の取り込みでアフリカ・東南アジアなどの票固めに入っていますし、その影響力はEUの弱点ともいえる中東欧諸国と南欧諸国にも及んでいます。

これはG7を巡る各国の対応のズレにも表れています。トランプ大統領は韓国やロシア、インド、オーストラリアを加えた拡大G7を提案するのに対し、欧州各国は、ロシアの招待はOKだが、G7への復帰は許さず、ましてや韓国とインドのG7の仲間入りは到底受け入れがたいとの姿勢で、「開催時期が変更されたとしても、アメリカの方針が変わらなければ、参加を拒否する」可能性にも言及しだしました。今のところ【アメリカの忠実な同盟国】としてアイデアを評価しているのは、日本とオーストラリア、そしてカナダで、すでに“同盟”関係にもスプリット(分離)が見えます。

ロシアは歓迎するどころか、態度を保留し、「G7はもう時代遅れで、世界的な議論はG20にするべき」とアメリカに牽制球を投げつけることで“拒否”し、アメリカとの対立軸を鮮明化させています。とはいえ中国べったりでもなく、プーチン大統領のロシアは独自の軸を地政学上確保しようと躍起になっているようです。支援やアメリカとの関係改善は、コロナで痛めつけられた経済状況からすると欲するはずですが、下がり続ける支持率を上げるためには、アメリカとの対立の演出が不可欠との判断をプーチン大統領とその側近たちは行っているようです。

今のところ、新型コロナウイルス感染拡大への恐れが残る中、9月開催の可否も不透明ですが、新型コロナウイルス感染のパンデミックは、戦後続いてきたG7の枠組みさえも崩すきっかけになってきたように思われます。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

print
いま読まれてます

  • 不可避の惨劇。コロナ後に鮮明化する米中対立と新興国の破綻連鎖
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け