不可避の惨劇。コロナ後に鮮明化する米中対立と新興国の破綻連鎖

 

そのG7の結束の弱化と分裂は、新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ新興経済国に止めを刺すことになるでしょう。

今週初め、レバノン、エクアドルに続き、アルゼンチンがデフォルト(債務不履行)に陥りました。アルゼンチン政府当局は、外国の債権保有者との交渉を続けると発表していますが、貸し付けている(アルゼンチン国債を保有する)諸外国もコロナで経済が傷つく中、返済猶予に簡単に応じるわけにもいかないという状況が存在しています。アルゼンチンの状況が改善しないとの見込みは、ブラジルやチリ、ペルーなどの近隣諸国経済にも大きなblowを打ち付けることになり、ラテンアメリカ諸国経済全体に悪影響が波及しかねない状況であるとの危機感が、IMFや世界銀行内で共有され始めましたが、すでに100か国以上から緊急支援要請が寄せられている状況では、ブレトンウッズ体制機関も打つ手がないとのことです。

その波はトルコや南アを襲い始めています。トルコリラや南アランドの対ドルレートの低下に歯止めがかからず、IMF内では“次にデフォルトになり得る国”として両国がレッドリストに入れられています。トルコは中東諸国とアジア、アフリカをつなぐ経済的なハブの役割を果たし、新興国経済の発展モデルとしての位置を確立してきましたが、アメリカとの確執などを乗り越えてきたトルコ経済も、COVID-19の前にはひれ伏す一歩手前とのことです。南アもアフリカの開発のエンジンとしての役割を担ってきましたが、同じくその威光も風前の灯火になってきています。“デフォルトやむなし”となってきている2つの地域大国に対し、ここでも米中の陣取り合戦が鮮明化しているようです。

器量設備や企業支援のために世界で13兆円規模のコロナ債が起債されるという、一見明るい話題にも見えるニュースが報じられていますが、民間ファンドからの出資を除くと、そのほとんどが国(途上国を含む)による国債発行による出資であり、すでに2020年と2021年で途上国の対外公的債務返済額が3兆ドル(321兆円ほど)に到達している状況下では、公的な支出でのコロナ債は、逆に新興国の首を絞める結果になりかねないとの懸念が膨らみ、そして米中によって分断される国際情勢の中、両国の陣地取り合戦と覇権争いが、さらに新興国の悲劇を増大させる可能性が大きくなってきているように思われます。

今のところ、このような国際情勢の中、日本は自国の立ち位置をハッキリさせていません。国や政府を相手に何でも批判する・承認するという姿勢ではなく、「ダメなものはだめ、いいことは良い」というようにイシューベースの対応に徹して、地政学上の大波に飲み込まれないようにギリギリの線で踏みとどまっているように思われます。

日和見外交だとか、イニシアティブ・リーダーシップの欠如と批判する声も聞かれますが、私個人としては苦労の末、何とか独自の立ち位置を探る賢明な外交策ではないかと感じています。しかし、このイシューベースで対応する姿勢が通用するのもあとわずかの間かもしれません。

COVID-19の世界的なパンデミックは国際協調の下、深化してきたグローバリズムを停止させ、各国で進む自国第一主義や自国回帰の傾向を受けて、逆流しているように思われます。

そして米中というTwo Topsの国際体制が顕在化し、その他の国々は“どちらのブロックに属すか”を決めて行動しなくてはならないという対立構造に巻き込まれることになります。結果として“もの・こと”を実施するためのコストが上がり、経済的・社会的な格差も拡大し顕在化するものと思われます。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて世界で進められた自粛生活は、リモートワークの可能性と質の向上、人とのつながりの重要性への気づきと再発見、新しい生活様式(特に精神的により豊かで余裕のある様式)への移行志向というポジティブな産物を世界にもたらしました。またイノベーションを加速させたという利点もあります。

しかし、それらの利点を大きく上回る懸念と分裂が私たちを襲ってきているのではないかと感じます。

そのような中、いかに大波にさらわれ、溺れてしまうことなく、助け合いながら自分の立ち位置をちゃんと見つけていけるか否かの分岐点に私たちは立っているのだと思います。

私たちをいろいろな意味で豊かにしてきたグローバリズムは、今、終わりを迎えようとしています。

そのような中、皆さんはどう生きていきますか?

その答えを出す時間はもうあまり残されていないのかもしれません。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』より一部抜粋。)


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