不可避の惨劇。コロナ後に鮮明化する米中対立と新興国の破綻連鎖

 

まず【米中対立の鮮明化】については、いろいろな側面での対立が挙げられると思います。

例えばWHOを舞台にした米中対立は、アフターコロナ時代の医療・製薬・公衆衛生の覇権争いです。先週お話ししたアメリカ主導のCORD-19と、WHOが主導し実際には中国が引っ張るCOVID-19に対する国際枠組みの対立です。WHOが舞台として、仮に票数のみで勝敗を決めるなら、中国の圧勝と言えますが(台湾参加問題については圧倒的多数票を獲得したことからも分かるように)、実際の影響力でいえば、アメリカ優位かもしれません。それは、アメリカ側には、G7がいい例ですが、数は少なくとも経済力や技術力を兼ね備えた先進国が並んでおり、国際マーケティングという側面では、まだ中国の追随を許していません。恐らく、新型コロナウイルスに対するワクチンや治療薬の開発・販売という点では、アメリカ側の“勝利”に終わるでしょう。もちろん、中国サイドも黙って負けを受け入れることはないでしょうが。

次に3年余り続く貿易戦争の存在です。

これはコロナパンデミックまでの1月に米中合意の第1弾が成立し、アメリカが対中関税措置発動を猶予する代わりに、米国産農産物を中国が購入するという内容で落ち着きました。

しかし、【誰が新型コロナウイルスをばら撒いたか】という責任転嫁と情報工作の応酬によって、今、その第1次合意が反故にされる見込みです。中国が米国からの農産物の輸入の約束を破棄するという内容です。これはCOVID-19のパンデミックで需要がガタ落ちし、人の移動制限によって労働力不足が起き、長期的には供給力の低下にもつながりかねないという大きな恐怖をアメリカの農業界に突き付けることになります。11月に大統領選挙を控えるトランプ大統領にとっては失うことのできない大事な票田ですから、トランプ政権に残された手は中国叩きの激化のみです。それはさらなるバックラッシュを生むことになるでしょう。

例えば、アメリカビジネス界にとっても、また米市場に進出している中国企業にとっても、大きなジレンマに直面する事態を意味します。

貿易交渉の現場でよく口にされるジョークとして「中国でWin-Winの取引というのは中国側が2度勝つことだ」というものがありますが、米中対立の激化は米中双方にとってLose-Loseの様相を示すようになってきました。

アメリカやカナダから徹底的に行われるファーウェイ叩きは、アメリカのIT業界のパフォーマンス低下につながりますし、中国企業にとっては非常にスケール上魅力的な米国市場を失うことにもつながります。

アメリカ企業にとっては、政権の意向もあり、中国回避を行わざるを得なくなっていますが、中国を見捨てることも短期的には現実的ではなく、対中国マーケットについては中国で現地生産を続け、他に対しては中国抜きの供給網の確立を余儀なくされるという多方面での対応を同時に迫られるため、コロナで痛めつけられている経済をさらに鞭打つ恐れが増します。

アメリカで上場を果たしている有名中国企業にとっても大きなジレンマです。先述のように米市場は非常に大きな市場で魅力的ですが、習近平国家主席と政権の意向には逆らえず、結果、米中ダブル上場という自国回帰を余儀なくされています。これは一方では中国企業の競争力維持のための措置と考えられ、中国政府も側方支援するようですが、同時にダブル上場は一株当たりの価値を減少させる可能性が高く、それは投資家にとっては大きなリスクとなるため、下手すると世界を引っ張るレベルにまで成長した中国企業の成長の息の根を止めてしまうかもしれません(金融・株式の専門家の方、いかがでしょうか?)。

それでもアメリカとの対立構造を強めざるを得ないのは、習近平国家主席の国内での権力基盤がコロナ対策の失敗により揺るぎ始めているため、権威復活のためには、とにかくアメリカとの対立構造を鮮明化させる他ないとの判断だと読み解けます。言い換えると、中国の成長を鈍化もしくは停止させる恐れがあっても、この機会を活かして、米欧との決別を画策するのかもしれないとさえ思われます。

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