そうした欧米での事件のニュースをTVで見ていて、日本との落差を感じさせられる場面にハッとさせられることが少なくないのですが、なんだとお思いですか。先進国ほど、逃げてくる人々が両手を高く上げ、掌を開いて走ってくるシーンです。
これは、私が監訳し、西恭之氏(静岡県立大学特任准教授)が翻訳した『アメリカ式銃撃テロ対策ハンドブック』(近代消防社)でも繰り返し述べてきたことですが、これが銃器や刃物を使ったテロの時の避難者の基本的な姿勢で、みんなが同じように手を上げている都市では、当局による訓練が行われていることを意味しているのです。
両手を上げて走れば、テロリストと間違えられて撃たれることを避けられますし、警察当局からすれば、両手を上げて走ってくる人間がテロリストだったとしても、掌を開いていますから、その分、テロリストが自爆テロ用の超小型ワイヤレス送信機や隠し持っている銃器を使おうとしても、待ち構えている警察部隊のほうが早く発砲できます。何の意味もなく両手を挙げ、掌を開いている訳ではないのです。
私たちが出したハンドブックは日本で初めての試みで、それを見ただけでも日本のテロ対策の遅れがわかると思います。日本の場合、まず報道するマスコミの側に基礎知識がありませんから、偶然の場合を除いて、逃げる市民の姿を克明に追うことはありませんし、まして避難の在り方や訓練について報じることは皆無です。
来年夏の東京オリンピック・パラリンピックについて、日本の警察当局の中から「警備面で開催は無理」という声が出始めていると聞きます。銃撃テロ対策ハンドブックを紹介した立場としては、そんな弱気なことを言わないで、オリンピック・パラリンピックを機会に訓練を始め、定着させてはどうか、と背中を押したい気持ちです。(小川和久)
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