菅総理は牟田口か。コロナ下の東京五輪は「令和のインパール作戦」だ

 

中国に負けるなという頑張り?

菅が五輪開催にしがみつくのには、内政上の都合だけでなく対外的な面子の問題もある。毎日新聞の伊藤智永=専門記者が5日付同紙「Go Toコロナ五輪の怪」で書いているところによると、旧大蔵省OBがなぜ五輪は中止できないのかを後輩の武藤敏郎=組織委員会事務総長(元財務事務次官)に問うたところ、こういう答えが帰ってきたという。

「東京五輪ができずに、半年後の2022年2月、北京冬季五輪が成功裏に行われたら、国内の反中世論が激高して政権が持ちません。中国は全入国者の健康状態を徹底監視する恐るべきシステムを用意し、国家の威信にかけてやりますよ」

なるほど、こういう面子へのこだわり方もあるのかと感心してしまうが、そこで中国と張り合うのは到底無理だろう。中国はこれから「全入国者の健康状態を徹底監視する恐るべきシステムを用意」するのではなくて、すでに全国民の健康状態や移動履歴をチェックしてスマホ上にQRコードで表示し、感染の危険があればそのQRコードが赤、なければ緑に色分けし、一目で判別できるシステムを全国に普及させている。さらに習近平国家主席は11月のG20サミットで、この「健康コード」システムを各国も導入し、国際的な人の往来を盛んにしようと呼びかけている。

22年冬季五輪では、外国から訪れる選手も観客も全員「ウィーチャット(微信)」か「アリペイ(支付宝)」のアプリを取得し、スマホをかざして出入国・出退場も店での支払いも済ませることになり、これを期にこの中国式が一気に世界標準となる可能性もある。来年に「デジタル庁」を作ろうかなどと言っている日本は、社会のデジタル度において残念ながら10年以上も差を付けられてしまっているのである。

対策にメリハリをつけないと

さらにそれ以前の問題として、コロナ禍退治の徹底ぶりが違う。確かに、発生源となった中国の特に武漢市当局には、最初の段階でもたつきや混乱があったのは事実だが、新型コロナの最大特徴が感染しても発症しない者が多く、その者たちが知らずに感染を広げてしまうところにあることを把握して、厳格なロックダウンと外出制限、徹底的なPCR検査と隔離体制をとって2月一杯でほぼ押さえ込んでしまった。

もちろんその後も、散発的な発生はあるけれども、『日経ビジネス』電子版11月26日号の「中国コロナ対策のすごみ」によれば、例えば10月にクラスターが発生した山東省青島市の場合、周辺3市から数千人の医療従事者が移動型のPCR検査設備を持って応援に入り、全市民940万人の検査を実施。感染者とその濃厚接触者は14日間の完全隔離下に置かれる一方、状況に応じて「高リスク」「中リスク」「低リスク」をはっきりした基準を以って地域区分し、それを上述のスマホ・アプリと連動させてメリハリをつけて管理するので、漠然と広い地域が行動を制約されて住民が不安に陥るといったことは起こらない。そのため経済活動も滞らず、4%程度の成長率も確保できている。

日本政府=厚労省がPCR検査を重症者のみに絞ろうとする当初からの誤りを是正しようとしないことを徹底的に批判してきた上〔かみ〕正弘=NPO医療ガバナンス研究所理事長は、近著『日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか』(毎日新聞出版、倉重篤郎構成、20年11月20日刊)の中でこう語っている。

「無症状感染者が街にあふれている日本に欧米人は来たくない、と思うでしょう。重ねて申しますが、菅首相が本当に五輪をやりたいのであれば、ある意味で中国のような状態までもっていかないといけない」

上博士によれば、無症状感染者(が存在しそれが感染を広げてしまうという)問題は、20年1月24日の英医学誌『ランセット』で香港大学の研究者たちが報告し、世界中が注目したのだが、「日本ではこの情報を見落としていた」ので、対策を初めから間違えてしまい、今なおその延長上で間違いを重ねている。

これではコロナ禍はいつまでも収まらず、五輪もやれるかどうか疑わしく、従って菅政権も短命に終わる公算が大きいということになる。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

 

print
いま読まれてます

  • 菅総理は牟田口か。コロナ下の東京五輪は「令和のインパール作戦」だ
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け