最初に飲むのは芋焼酎のお湯割りで、専ら「薩摩白波」という紙パックの、1800ml、1500円くらいの安酒を飲んでいる。芋焼酎の中では、私はこれが一番気に入っている。例えば、「森伊蔵」というプレミアム芋焼酎は、確かに洗練されていて飲みやすいけれど、芋臭さが全くなく、物足りない。そうかといって、一昔前の芋焼酎のようにあまりにも芋臭くて、「えぐみ」が残るようなものも、ちょっと飲み辛い。「薩摩白波」はその辺りのバランスが丁度よい。
焼酎を飲んでから、風呂に入る。最近は暖かくなってきたので、シャワーで済ますことが多い。もう少ししてヒグラシが鳴く頃になれば、窓を開けて山を眺めて、ヒグラシの声を聴きながら湯船につかると、極楽気分が味わえる。
風呂から出ると、毎回必ず風呂を洗う。これは私の仕事である。洗剤で湯船や床や壁を洗った後、シャワーで洗剤を流し、水滴をふき取る。手入れを怠ると、暫くすると天井にカビが生える。この段階で対処しないとカビが根を張って、こうなるともはや手遅れである。毎日風呂を洗って乾かしておけば、10年経ってもほぼピカピカのままだ。老人は新しいことに挑戦するのは苦手でも、同じことをするのはさほど苦にならないのだ。
風呂が済むと夕食である。夕食は女房が作る。私は、後片付けをするくらいで夕食は作れない。通常の夕食では日本酒を飲むことが多い。最近飲んでいるのは、山梨県白州の蔵元、七賢の純米酒「風凛美山」である。1800ml、2200円の安酒だが、これが結構すっきりしていて、後口も悪くない。それにしても、「風凛美山」という命名はいかにも山梨県である。風林火山の語呂合わせだが、山梨県人は語呂合わせが好きなのだ。
山梨大学に勤めていた頃、甲府駅の北口に「弁当弁」という弁当屋が開店したことがあった。「ほかほか弁当」という弁当屋が大流行りしていた頃で、店主は素晴らしい命名だと思っていたのだと思う。知り合いの音楽専攻の女子学生が、ベートーベンを馬鹿にするのか、とカンカンに怒って、呪いをかけて潰してやると息巻いていた。
音楽より、食いものの方が大事だろ、と思っていた私は、まあそんなに腹を立てなくともよいではないか、と思ったが、この子の剣幕が並ではなかったので、口に出しては言わなかった。呪いが効いたのか、この弁当屋さんは暫くして本当につぶれてしまった。余り、キッチュな名前は付けない方がいいということだね。(メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋)
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