全てが想定外。米国情報筋が漏らしたアフガン撤退“大混乱”の舞台裏

 

米国は正気を取り戻さないと

どうしてこんなことになるのか。

トランプ政権の登場後、米国の精神科医であるアレン・フランセスは『アメリカは正気を取り戻せるか』(創元社、20年10月刊)を著してこう述べた。

▼簡単に言えば、トランプがクレージーなのではなく、われわれの社会がクレージーなのだ。……トランプが変わることは期待できないが、われわれは、彼を生み出した社会の妄想をなくす取り組みをしなくてはならない。

▼〔妄想で〕最も一般的なものは被害妄想である――「どこにでも自分の敵がいる」「外部から働く何らかの力が自分が抱えるトラブルの原因だ」「私が失敗するのは自分のせいではない。誰かが自分を失敗させたのだ」と考える。

▼次によくあるのは誇大妄想である――「自分はひときわ優れた人間だ」「自分には並外れた力がある」「自分には特別な使命が与えられてきた」「自分は何をしても正しい」などと考える。

▼妄想は、個人においても社会においても、降りかかってくる現実を否認する、何でも人のせいにする、尊大な態度を取る、自分は尊敬されているという誤った感覚を持つ、という点で同じである。〔そのような〕否定妄想によって、われわれがすでに世界をめちゃくちゃにし、その世界を元どおりにするのに大きな犠牲を払わねばならないというつらい現実から逃れることができる……。

米国社会がクレージーだからトランプのような本物のクレージーを大統領に選んでしまうのだし、彼が去っても社会のクレージーさが治るわけではないので、またバイデン程度の人物に後を委ねることにもなるのである。

軍事力で世界は思い通りになるという妄想

この米国の妄想癖は「軍事力万能」主義となって表れる。すなわち強大な軍事力さえあれば思いのままに世界を動かせるかのような妄想に駆られて大掛かりな戦争に打って出るが、思い通りにはならず、そうするとなぜそういうことになるのかが理解できずに凶暴化したり、自己嫌悪に嵌って落ち込んだり、あるいは思考停止に陥って突然、無責任に何もかも投げ出してしまったりする。

この軍事力万能妄想は、米国の歴史の最初から纏わりついている病で、北米先住民の虐殺、黒人奴隷の虐待、メキシコへの侵略など、白人植民者が他者を暴虐の限りを尽くして周りを叩き潰しながら国家形成にたどり着いた「暴力主義」の歩みに、深々と根ざしている。

● 参考:W.E.ホロン『アメリカ 暴力の歴史』(人文書院、92年刊)

とはいえ、その暴力主義はベトナム戦争で極点に達し大噴火を起こして砕け散ったのではなかったか。米国の安全保障・戦略研究の大御所であるハーラン・ウルマン=米国防大学特別上級顧問は『アメリカはなぜ戦争に負け続けたのか』( 中央公論新社、19年刊)でこう書いている。

▼ベトナムでの敗北から学んだはずだったことが、指導者の頭から抜け落ちてしまった。信頼できる正当な理由や戦略的思考なしに戦争や武力介入を始めたり、不必要な挑発をしたりすれば、失敗は避けられない。それなのに、あまりにも頻繁に、米国はこの明らかに失敗に繋がる戦争のやり方を選んできた。

▼この数十年間の共和・民主両党の政権は、武力は最終手段だと言いながら、実際には最初の政策として武力攻撃を選ぶことのほうが多く、政府が選択できるその他の手段を無視、あるいは過小評価してきた。

▼敵について、あるいはベトナム文化についての理解が欠けていたことが、2001年のアフガニスタンへの介入や、03年のイラク、11年のリビアでも繰り返された。現地の状況と文化についての無知がいまや常態となってしまっているかのようだ……。

一方では「自分には並外れた力がある」「自分は何をしても正しい」という自己への誇大妄想がある。そのため、敵をよく知り味方の力を量って入念に戦略を立てることを省いて、いきなり武力攻撃を選択しようとする衝動に駆られるが、そんなやり方は必ず失敗する。しかし、自分には力があり、それを行使するのは正しいはずだという誇大妄想はまだ続いているので、たちまち「私が失敗するのは自分のせいではない。誰かが自分を失敗させたのだ」という被害妄想に転がり込んで行き、結局のところ失敗の原因は決して正しく総括されず、だからまた同じことが繰り返されることになる。

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