泥沼の事態に発展か?スーダン軍部クーデターに見え隠れする中露の“意図”

 

そして、それらの“隣国たち”の背後にいるのが、中国(とロシア)であると考えられます。

今回の事態に対し、米国政府は猛烈に非難し、対スーダン支援を即時停止したほか、EUも最大限の懸念を表明して、対スーダン支援の停止を実施しています。そして国連では緊急の安全保障理事会の招集も計画されており、今年に入ってから活発化しているアジェンダであるPeace and Security in Africaの内容がまた加えられることを意味し、アフリカ、特に東アフリカにおける不安定化が一層加速してしまいます。

スーダンとエチオピア、そしてエジプトとの間での懸案事項であるルネッサンスダム問題も解決の糸口が見えませんが、本来、このような問題を仲裁することを期待されているアフリカ連合(African Union)も、エチオピアのケースを見ても分かるように、完全に機能不全に陥っていると思われます。

「外国勢力による影響力を排除し、アフリカの問題はアフリカが解決する」という理念の下、できる限りAUによる調停・仲裁を試みていますが、このところ、“だれを仲裁官に立てるか”という根本的なポイントで合意することが出来ず、その間に紛争や問題が激化していくという、悪循環に陥っています。

その結果、欧米勢力はもちろん、中ロの勢力もアフリカに進出し、今では、世界でいくつかある米中対立の最前線の一つが、この東アフリカ地域になってしまいました。その中でもエチオピア(とジブチ)がこれまでホットスポットと見られてきましたが、今回、スーダンがその仲間入りをしてしまう可能性が高いと考えられます。それをアメリカ政府は懸命に阻止しようとしているようです。

ハムドク首相他が解放されて緊張が少し弱まったとする見解もありますが、実際には、ブルハン議長の勢力および周辺国(特にエチオピア)の出方を欧米諸国はとても注意深く見守っており、それゆえにしばらくは欧米諸国およびUN関連からの対スーダン支援が再開される見込みはないと思われます。

そのような際に迅速に手を差し伸べるのが、ご存じ中国の外交手段です。中国政府は、今回のクーデターに対して公式のコメントは出していませんが、非公式にはハムドク首相とブルハン議長の勢力双方にコンタクトを取っているようで、すでに欧米勢力と、中ロを中心とする国家資本主義勢力との陣地争いが始まっているようです。

スーダン情勢が再び不安定化し、東アフリカ地域が草刈り場となってしまうことは、非常にデリケートなバランスの下、平和と安定を築いてきた東アフリカ各国全体の情勢不安へとつながるかもしれません。

先述のルネッサンスダム問題によって、地域大国のエジプトとスーダンの結束は深まり、対エチオピア政府の共同戦線が出来ていましたが、軍主導のブルハン議長の勢力が、エジプトとエチオピアのトライアングルをどのように感じて動くかによっては、事態が急変する可能性もあります。

ケニアとソマリアの間での緊張も高まっていますが、今回のスーダン情勢の不安定化が飛び火した場合、偶発的な事件でも起こってしまうと、緊張関係が一気に戦争勃発という事態になりかねませんし、その影響は瞬く間に東アフリカ地域に広がってしまい、タンザニア、ジブチ、ケニア、エチオピア、南スーダン、スーダンなどへと波及して、最悪の場合、地域全体を巻き込んだ大きな紛争に発展しかねないと懸念しています。

それは不安定極まりないコンゴ民主共和国や中央アフリカ共和国などを含むアフリカ中部にも波及しかねませんし、今でもISの影響が強いと思われるリビアやチュニジア、アルジェリア、そしてモロッコへと拡大するかもしれません。

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