形容矛盾の表現として次のようなものもありました。
「わりと本当にすごい」
ある商品に対するコメントとして書かれていたものです。
「わりと」は、「わりあい(に)」という副詞のくだけた言い方です。「この冬はわりあい(に)、寒い日が少なかった」という具合に使います。漢字を当てると「割合(に)」となります。それが次第にくだけて「わり(割)に」となり、さらに「わり(割)と」というふうに変化したものです。
プラスなのかマイナスなのか
いずれも、予想していた程度を少し超えていた、期待を少し上回っていた、という意味です。この場合、「わりあいつまらなかった」「わりあい面白くなかった」などのように、マイナスの表現には使われません。
「本当に」という副詞は、「程度が甚だしい」という意味で、まちがいないと思えることを強調するときに使うことばです。
この場合の「すごい」は「程度が甚だしい」「常識では考えられないほど並外れている」という賞賛の意味となっています。これが、
わりとすごい=予想していたよりすごい
本当にすごい=並外れたほどすごい
というように、「わりと」と「本当に」が、それぞれ単独で「すごい」にかかるのであれば、違和感なく成立します。
「思っていた以上に、本当にすごかった」という趣旨として、「わりと=思っていた以上に」を使ったのかもしれません。しかし、くだけた言い方が用法として成立していないので、やはりしっくりきません。
しっくりこないという感覚がどの世代と共有できるのか、ことばの揺れがどの段階で人口に膾炙するのか、という点も興味深いところです。
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