なぜ「焼肉きんぐ」は飛躍的成長を遂げたのか?10年で売上10倍を達成した“思考のバイアス”

 

満腹なのに注文し続けてしまう理由

さて、こうして食べ放題の開始直後に大量に食べてしまい、思ったよりも早く満腹感を感じ始めたとします。それでも頭の中で食べたい気持ちは収まりません。

そして、さらなる食べ過ぎにつながる別の心理的バイアスが働きます。「サンクコスト効果」です。

サンク(sunk)は、「沈む」を意味するsinkの過去分詞で、「沈んだ」という意味であり、サンクコストは沈んだコスト、即ちニ度と戻らないコストです。

しかし、人はこれにこだわってしまい、無かったものと諦めることができません。この、過去に失って取り戻せないコスト(時間、金、労力など)によって、現在や未来の行動が影響されてしまうのが「サンクコスト効果」です。

焼肉食べ放題では決まった代金を支払えば、食べても食べなくても料金は変わりません。

それにもかかわらず、確定した支払い額のことが頭から抜けません。食べられるだけ食べようと思ってしまうのです。

その結果、お腹がいっぱいにもかかわらず、注文し続け、食べ続けてしまう状況に陥ります。

【関連】10年で売上10倍の「焼肉きんぐ」、業界に革命を起こした大成功の秘密

トクしてなくてもトクだと思える幸せな勘違い

一定金額を支払って無制限に飲食できるパターンは多く、ファミリーレストランのドリンクバーもその一つです。平均的なドリンクバーの金額は300円程度でしょうか。

普通の飲食店でもジュース一杯300円程度はするものですから、3杯注文すれば900円になります。

ところがドリンクバーならば3杯飲んでも300円です。会計でドリンクバー代の300円を払う際にも、「900円分飲んだ」という計算が頭の中で働きます。最終的に得をしたという判断につながるのです。

この時「アンカリング」と呼ばれる認知バイアスが働いています。

これは人が判断や予測をする時に、初めにある値を設定したうえで判断するという、一種の思考のクセです。

アンカリングの言葉の元になるアンカーは船の錨(いかり)です。錨を下ろした船は錨に結び付けられた鎖の範囲でしか動くことができません。人の判断もこれと同様に、始めに頭に入った前提がその後の判断を縛るのです。

ちなみにファミレスのドリンクバーの原価は1杯あたり15円~30円程度と言われています。原価が高めの果汁100%のジュース類でも、10杯以上飲まないと元は取れません。

【関連】「昭和・平成レトロ商品」をネットで競り落とす人が陥る“後悔の回避”というワナ

結局WinWinになりうる食べ放題システム

食べ放題であろうと飲み放題であろうと、店にとってはビジネスですから、利益無しでは続きません。

来店客が、得した気分を味わいながら気持ちよくお金を支払うことは、双方にとって良いことなのでしょう。

とはいえ、食べ過ぎと注文し過ぎに関しては気を付けた方が良いかもしれませんね。

hashimoto_1220

引用:9 割の買い物は不要である 行動経済学でわかる「得する人・損する人 」
橋本之克秀 著/秀和システム

プロフィール:橋本之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディング ディレクター 兼 昭和女子大学 現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店勤務などを経て2019年に独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。

image by : 円周率3パーセント / CC BY-SA 4.0

print
いま読まれてます

  • なぜ「焼肉きんぐ」は飛躍的成長を遂げたのか?10年で売上10倍を達成した“思考のバイアス”
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け