核による“人類の自殺”まで秒読み段階。暴走プーチンが握る世界の命運

 

NPT体制においては、米ロ(ソ)中英仏の“核保有国”は、核兵器の廃絶を念頭に、核戦力の削減と軍縮をする義務を負い、その他の国々は核兵器を開発・製造・配備しないことが合意されていますが、これらの義務も合意内容も明らかに守られていません。1945年8月9日に長崎に原爆が投下されて以降、核兵器は使用されてはいないため、核抑止といった幻想が国際政治上、信じられてきましたが、その間もインドとパキスタンは核戦争前夜と言われるまでの緊張を経験しましたし、中東においては常にイスラエルとイランの間での“核の緊張”が存在します。そして、わが国日本も巻き込んだ北東アジア地域では、現在、北朝鮮が恐らく20発の核弾頭を保有し(SIPRIの情報による)、いつでも配備できる状態になったという新たな現実が、核の脅威としてその影を落としています。

日本は、ロシア・中国・北朝鮮・アメリカ合衆国という核戦力に四方を囲まれる非常に特異な安全保障環境に置かれていますが、アメリカは日本に核の傘を提供する“同盟国”なので直接的な脅威ではないとしても、残りの3か国とは常に緊張関係にあるという現実を再認識せざるを得ない国際情勢になっています。

そんな中、広島と長崎でアメリカによる原爆投下から77年目の式典が開催されました。

広島と長崎での式典の様子および原爆投下直後の悲惨な様子を報道する映像を、意図的にウクライナでの惨禍のニュース映像と重ねるという【ウクライナ問題を核兵器の脅威とリンクさせるイメージ戦略】に対しては、個人的に若干の危機感と違和感を覚えましたが、それらの映像が広島と長崎の鎮魂の様子を伝えつつ、どれだけの人に、実際に日本にも再度迫る核の危機を意識させる効果があったかは疑問です。

そんな中、8月1日に日本経済新聞が報じ、欧米メディアも相次いで報じたのが【中国が新疆ウイグル自治区に設置しているロプノール核実験場で地下核実験施設を拡大している】というニュースです。

これに対して中国政府は否定も肯定もしていませんが、各国の軍事衛星がとらえた映像はその情報を裏付けるような内容を映し出していました(これに対して「欧米の陰謀論だ!」「欧米が作り上げた偽の映像だ」という日本の識者もおられましたが)。

今年1月3日国連安全保障理事会で、常任理事国である米英仏中ロの5か国(P5)は共同で「核戦争に勝者なし」と宣言し、「核兵器なき世界という究極目標に向けて、着々と軍縮を進展させる決意」を述べていますが、その後、ロシアは核兵器の使用をちらつかせて、ウクライナを支援する世界を威嚇し、中国はNPTの開催中に地下核実験場の拡大という、NPTの精神に反する行動に出ています。

そして、時期はずれますが、英国政府は核戦力の拡大を国際社会に宣言しました。

中国の行動については、その目的についてさまざまな見方があるようです。例えば「これは対アメリカ・対中国包囲網の参加国に対する威嚇と抑止力の向上を意味する」という意見もあれば、「習近平国家主席が掲げる中国の軍事力拡大の要請に応え、2049年までに米軍の能力を超えるという目標に応える方策として、急速な核戦力の拡充に走っている」という意見もあります。

私はそのどちらも適切な指摘だと考えますが、もう一つ、今、核実験の拡大を“あえて世界に見せる”理由として挙げたいのは【台湾に対する軍事的なオプション】という“中国統一(台湾の併合)”のための最終手段として“見せる”と同時に、先週のペロシ米連邦議会下院議長の訪台への抗議の材料としても位置付けているのではないかと恐れています。

果たしてどうでしょうか?

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