核による“人類の自殺”まで秒読み段階。暴走プーチンが握る世界の命運

 

あくまでも私見であることを断っておきますが、それはNPT体制の弱体化または無力化で、同時に核軍縮の国際枠組みの終わりです。言い換えると、核軍拡路線が加速し、現在、1万3,000発ほどにまで減ってきた核弾頭の数は、中国の軍拡と北朝鮮の核戦力増強の動きだけでも増加傾向に転換してしまうことになります。

現時点ではまだ米ロだけで全世界の核弾頭の9割を保有するという圧倒的な現実がありますが、その割合も今後、中国と北朝鮮、そして“ほかの核戦力”国が、恐怖に支配されて核戦力の拡大に走ることになれば、核の不拡散体制も終焉し、NPTやCTBT(包括的核実験禁止条約)をはじめとする核兵器をめぐる国際管理システムは破綻することになります。

それは核兵器禁止条約(TPNW)の内容と精神がただの戯言とされてしまう悲しい結果につながり、国際社会はまたいつ何時核兵器が使われかねない恐怖と直面する恐れが高まることになるでしょう。

そして先述の通り、ロシアがアメリカとの間で締結した新START下での相互査察を一方的に停止し、ロシアの手の内がベールで包まれてしまうことになると、それは周辺国における“核兵器の扱いと認識”に影響を与えます。すでに、これまで核兵器に反対し、ICAN事務局長のフィン氏の出身国でもあるスウェーデンが核兵器の存在、そして核の傘が果たす抑止力としての役割に対しての“一定の理解”をするという方向転換をしているのが一例でしょう。

もしこれが現実の流れとなってしまったら、1945年の国連発足後第1回目の国連総会(開催は1946年ロンドン)で掲げられ、全加盟国が賛成した“核廃絶という究極目標”が夢のかなたに消え去ることを意味し、そしてそれは、岸田総理が掲げる【核兵器なき世界の実現】がほぼ不可能になることを意味します。

岸田政権が発足した昨年、総理ご自身から核兵器なき世界を目指す道程についてお聞かせいただく機会を得ました。

その際「核兵器禁止(条約)は私たちが目指すべき出口、ゴールであり、そこにいたるまでにはまだまだ辿らなくてはならないプロセスがある。例えば、核軍縮・核廃絶に向けての動きが必要だが、そこには核兵器そのものの削減・廃絶に加えて、2つの廃絶・削減がなされなくてはならない。それは“核兵器がもつ役割の廃絶”と“核兵器を持つ理由の廃絶”だ。これら3つの廃絶なくして、核兵器の禁止へと一足飛びに向かうのは、核兵器なき世界の実現にはつながらない」と仰っていました。

私もまったく同感ですし、現在の核保有国の専門家たちと議論をした際にも、同様の考えがシェアされています。

しかし、皆さんもご存じの通り、現行の国際情勢の混乱は、この3つの廃絶の方向性とは逆の方向に進んでいるように思われます。

先に発表された英国による核戦力の増強もそうですし、最近の中国の地下核実験場の拡大と核戦力の急速な拡充という安全保障方針の提示もそうでしょう。そして、2月以降繰り返される【ロシアが核兵器保有国であることを世界は忘れるべきではない。ロシアは自国の安全保障に危機を感じた場合は、核兵器を用いることは厭わない】というプーチン大統領の発言も、核兵器の“役割”を誤ってクローズアップするきっけかになっているように思います。

ところでこの“ロシアの核兵器”が、今後の核軍縮・核廃絶の動きに大きな役割を持っているという皮肉にも思える状況を認識されているでしょうか?

現在、世界最多の核弾頭数を有するロシアですが、今回のウクライナへの侵略に際して公言した核兵器の使用の可能性が、ロシアの核戦力としての信憑性はもちろん、核兵器の役割の有無さえ決めかねない状況になっています。

とても嫌な仮説ですが、宣言通りロシアがウクライナ戦線に核兵器を用いることになったら、ウクライナとその周辺国に対して大きな物理的なダメージを与える以外に、国際秩序と世界の安全保障に対する認識に大きな負の影響を与えることになります。恐らく、ロシアの使用に対しては、他の核保有国から何らかの核による報復が起きうる事態になるでしょう。

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