それがよく分かるのが、台湾の最大野党・国民党の幹部の大陸訪問のニュースだ。中国人民解放軍が台湾周辺で大規模な軍事演習を行っているなかでの訪問なのだ。訪問団を率いたのは国民党の夏立言副主席。当然のこと民進党は激しく非難した。
民進党には夏氏の動きが不都合だ。理由は、台湾が一つにまとまって中国に対抗しているわけではない現実が世界に知られてしまうからだ。このことは日本やアメリカにとっても同じだろう。台湾支援の中身が、実は蔡英文支援だとなれば話は違ってしまうからだ。
あらためて言うまでもないが台湾内部で対大陸をめぐる対立があるのは、台湾でも何割かは「親中」(大陸)が存在しているからだ。割合として決して多くはないだろうが、もし極端な対立を嫌う現状維持派が蔡政権のやり方に疑問を持てば両社が結びつく可能性は否定できない。風向きの変化によって台湾の顔が大きく変わることも予測しなければならないのだ。
レモンド長官が語った「半導体製造をきっちり国内で管理したい」ということも、危機意識が強ければ当たり前の備えなのだ。
問題はこのアメリカの危機意識が究極のところ何を求めているのか、という問いである。自然に考えれば台湾から半導体の優勢を奪うことだと考えざるを得ない。
大陸との争いに目が奪われている台湾とは違い韓国は警戒している。大統領選挙で反中姿勢を鮮明にしていた韓国が、アメリカとの距離を慎重に調整しているからだ。
皮肉な未来を空想してみると、アメリカに高性能半導体を奪われようとする台湾が、自らを守ろうとして大陸と距離を縮める可能性が浮かぶ。そのときには当然、「アメリカのATM」と揶揄される蔡政権には見切りがつけられている……。現状では頭の体操だ。
ただ、日本で喧伝されるほど習近平指導部は台湾の状況に絶望感を覚えているわけではない。長期的には中国を頼らざるを得ない状況も訪れる、と考えているはずだ。そんな未来を見越していま、中国は制裁を調整している。もし蛇口を思いっきり開けば大きなダメージを与えられる台湾への制裁を小出しに抑えていると思われる。
これは経済制裁が有効である反面、制裁のダメージは大陸でビジネスをしている台湾企業に及んでしまうという矛盾を抱えているためでもある。大陸とのビジネスで利益を得ている人々は概して与党なのだ。制裁はピンポイントでやる必要があった。(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年8月21日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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