日本本土も攻撃目標に。台湾独立宣言なら必ず武力行使に出る中国

 

中国の内戦にどうして介入するのか?

まず第1に、冒頭の「ロシアのウクライナでの戦争が中国に台湾を攻撃しようという気にさせるかもしれないという懸念」というのは、バイデンではなく司会者の言葉で、日本のマスコミでもまるで「自明の理」であるかのように繰り返し用いられている米国発のフレーズだが、本当か?「ロシアがやったから自分もやってもいいと習近平が誤解するかもしれない」ということなのだろうが、それを言うには習はそれほど馬鹿であることの証明が必要になる。

第2に、バイデンは、ニクソン訪中以来の米中間の基本的な合意事項である「1つの中国」論を認めている。そうであれば、台湾有事に際して武力介入することは、即、対中侵略となる。念のために1972年の米中共同声明の台湾条項を引用する。

ニクソン訪中共同声明の台湾条項

 

◆双方は、米中両国間に長期にわたって存在してきた重大な紛争を検討した。中国側は、台湾問題は中国と米国との間の関係正常化を阻害しているかなめの問題であり、中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府であり、台湾は中国の一省であり、夙に祖国に返還されており、台湾解放は、他のいかなる国も干渉の権利を有しない中国の国内問題であり、米国の全ての軍隊及び軍事施設は台湾から撤退ないし撤去されなければならないという立場を再確認した。中国政府は、「一つの中国、一つの台湾」、「一つの中国、二つの政府」、「二つの中国」及び「台湾独立」を作り上げることを目的とし、あるいは「台湾の地位は未確定である」と唱えるいかなる活動にも断固として反対する。

 

◆米国側は次のように表明した。米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。かかる展望を念頭におき、米国政府は、台湾から全ての米国軍隊と軍事施設を撤退ないし撤去するという最終目標を確認する。当面、米国政府は、この地域の緊張が緩和するにしたがい、台湾の米国軍隊と軍事施設を漸進的に減少させるであろう。

ここでまず、米国が「台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している」と述べていることを確認したい。つまり、少なくともこの当時までは、台湾自身も「1つの中国」論だったのである。それは当然で、蒋介石が生きている時代の国民党政権の究極のスローガンは「大陸反攻」で、米軍の全面支援の下、大陸に軍事侵攻して北京政府を打倒して全土の支配を回復することを目指していた。だから米国もこの時までは疑いの余地のない「1つの中国」論だったのである。

ところがこの72年共同声明で大陸反攻の夢を最終的に絶たれ、そのための軍事作戦「国光計画」を廃棄せざるを得なくなった台湾は、同声明で「1つの中国、1つの台湾」も「1つの中国、2つの政府」も「2つの中国」も「台湾独立」も明示的に封じられて、1つの中国の一部ではあるけれども別の政治・経済システムを採用することを許容された、誠に奇妙な中途半端さを生きることになった。

つまり、米国は昔も今も「1つの中国」論に立っている。ということは、仮に中国と台湾の間で武力紛争が起きたとしても、それは「内戦」であって、それに米国であれ日本であれ他国が介入することは国境を跨いだ中国への「侵略」に当たる。

ウクライナ戦争の本質は、ウクライナ国内でのキエフ(キーフ)政府と東部ドンバス地方のロシア系住民が相対的多数を占める2州との間の自治権をめぐる「内戦」に対して、プーチンがロシア系住民の救済のために軍を投入して介入したということであり、確かにロシアが国境を踏み越えてウクライナに侵入したからには外形的には「侵略」に違いないけれども、それをもってロシアが周辺のどこの国を突然侵略するかは知れたものではなく、そのようなビヘイビアがすぐにでも中国に伝染するだろうと騒ぎ立てるのは、まるっきり根拠のないヒステリックな反応である。

そうだとすると、バイデンがあたかも当然であるかのように、台湾防衛に米軍男女兵士を投入するかのようなことを言っているのはなぜなのか。アフガニスタンでは米軍男女をもう1人も失いたくないので、後はどうなろとお構いなしに逃げるように撤退した。しかし台湾ではそうはならないのは、どうしてか?世界に向かって説明があってもいいのではないか。

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