激怒のプーチン“過激化”でロシアに吹き始めた逆風。政府内にも出てきた「離脱組」

 

そのような中、別の観点からNATOを通じた対ロ戦略のバランスに苦慮しているのがアメリカ政府です。

11月に議会中間選挙を控え、民主党の苦戦が予想される中、実際にはロシア・ウクライナ情勢どころではない中、それでも強硬姿勢を取らざるを得ないのは、アメリカ特有の理由があるようです。

第2次世界大戦後、旧ソビエト圏と対峙する自由主義陣営の守り手として核の傘を同盟国に提供し、共産主義の“魔の手”から自由主義諸国を守る役割を担ってきましたが、それも旧ソ連崩壊後、NATOのraison d’etreを探る中、旧ユーゴスラビアの崩壊、地域戦争の激化、イラク・アフガニスタンへの軍事介入と、唯一の超大国として役割を果たそうとしてきましたが、リーマンショックを機に世界への安全保障上のコミットメントのレベルを下げてきました。

中国が台頭し、世界各地で様々な衝突が多発する中、直接介入を回避するアメリカ政府の方針転換は、同盟国に対しての有事のコミットメントの有無とレベルに対する不安を与えるようになりました。

今回のロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州各国が「戦火が欧州を襲うかもしれない」という懸念を抱く中、アメリカ主導の安全保障体制が機能するか否かが試されており、アメリカの覚悟が試されていると言えます。

プーチン大統領とロシアが核使用を仄めかす中、実際に使えば世界は地獄絵図に変わる可能性がありますが、使わなければ「核兵器は実際には使えない兵器だ」という認識が広まり、ロシアによる核抑止と脅しは幻になるかもしれないのと同じく、ロシアがウクライナを飛び越して、欧州各国(そして日本)に及ぼす脅威にアメリカが迅速に毅然とした態度で対応できなければ、アメリカの権威は一気に落ちることとなり、同盟国からの信用が失墜すると同時に、同盟国による自己防衛能力の強化に繋がるという懸念すべき混乱状態に陥ることになります。

「ロシアと直接的に対決したくないが、せざるを得ない状況が近づいている。実際にどうすべきか」

非常に悩ましい決断を今、バイデン政権は迫られている事態と言えますが、その決断にはあまりもう時間がないかもしれません。

現在、国際社会は完全に分断し、なかなか協調体制の修復の機会・きっかけが見えてきませんし、各国が協調よりも自国の利益と生存の確保に走る“自国ファースト”の様相を強めていく中、多方面で同時に緊張が高まり、核兵器使用を含めた対決の可能性が語られることが多くなってきました。

これまでもそうであったように、もしかしたら私たち人類は、まさに「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、戦争の惨禍がいかに残酷で悲しい結末を招くのかを学ばず、「永遠の平和を希求するために永遠に戦争する」というサイクルから逃れられないのではないかとさえ思います。

もし77年の時を超えて再度核兵器が使われるようなことがあれば、世界は破滅的な結果を招くことになります。

そのためには一刻も早くロシアによるウクライナ侵攻をストップし、多重的にできた信頼の綻びを繕い、ロシアを含めた国際社会を取り戻さなくてはなりませんが、残念ながらなかなかその糸口が見つかりません。

これまでのキャリアにおいて経験したことがないスケールで、調停プロセスとシナリオが練られていますが、いつ実施に移すことが出来、複雑に絡み合った糸をほぐす手伝いができるかは分かりません。

もうすぐロシアによるウクライナ侵攻から8か月の時が経とうとしていますが、私たちは今、どこに向かおうとしているのでしょうか?

いろいろな情報や分析内容に触れる中、不安ばかりが募ります。

以上、国際情勢の裏側でした。

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