激怒のプーチン“過激化”でロシアに吹き始めた逆風。政府内にも出てきた「離脱組」

 

特に東南部4州に戒厳令を発布し、ロシアの国内法に戻づいて戦時下で国民の諸権利の制限を可能にする状況にまで至ったことはかなりのショックを与えているようです。

この戒厳令ですでに5-6万人がロシア領内に避難させられているということですが、この動きを「ついにプーチン大統領は核兵器を使うのか」と見る分析もある中、「部分動員は非常に評判が悪く、ロシア国民の国外逃亡を引き起こしたことで、その代わりに戒厳令を通じて強制動員をかけるに至るまでロシアは混乱している」という見方も出てきています。

核兵器の使用については分かりませんが、戒厳令の発令はプーチン大統領がロシア政府内の強硬派の主張を取り入れたことになり、それを受けて侵攻の総司令官を務め、チェチェンでもシリアでも徹底的な焦土作戦を実行し、Mr.最終戦争(アルマゲドン)という異名を持つスロビキン上級大将の下、対ウクライナ総攻撃が近く始まるという可能性が高まってきているように思われます。

スロビキン氏は、核のボタンは持っていないので彼の判断で核兵器を使用することは“理論上”できませんが、対ウクライナ戦争の実行においてかなりの権限を与えられたとみられます。

私はチェチェン紛争には直接に関わっていませんが、シリアの惨状は直に見ており、シリアにおいて「いざとなれば我らがChemistsに任せればいい」と発言し、反政府勢力を徹底的に叩き、シリア国内での激しい破壊を主導した状況を思い出すと、またウクライナで同じことをしやしないだろうかと妙に嫌な予感がしています。

そんな中、これまでロシアを庇ってきたか、非難を避けていた国々の態度が変わってきています。

中央アジア諸国については、最近、プーチン大統領に対して「我々への敬意を示してほしい。私たちはロシアの属国ではない。支援は不要。必要なのは対等の立場と相当の敬意だ」と注文を付けるようになってきていますし、自らの政治的な危機をプーチン大統領に救ってもらったはずのカザフスタンのトカエフ大統領も、どんどん先鋭化するプーチン大統領に対して距離を取り、ロシアの対ウクライナ戦争への“参加”は拒否し続けています。

これまで自国の経済的な利益とエネルギー安全保障を優先するためにロシアへの非難を避けてきたインドも、まだ非難グループには加わらないものの、じわりじわりとロシアから離れ始めています。

インド政府内の高官曰く「ロシア産の石油・天然ガスの“中継地”としての利点は無視できないし、アメリカなどからとやかく言われる筋合いはないが、プーチン大統領とロシアの行動の過激化には、正直、もうついていけない。インドの利益と国際社会での位置づけを考えると、そろそろ限界ではないか」という意見が強くなってきているということです。

ではロシアと対峙する欧米諸国はどのように対応しようとしているのでしょうか?

注目すべきは、ロシアによる核兵器使用の可能性が高まっているという名目で、NATOは恒例の核兵器運用のsimulationを実施してNATOによる核抑止をアピールしていることですが、これはこれまで「ロシアをあまり刺激して追い詰めないほうがいい」としてきた認識を変え、曖昧にしてきた“相当の破壊的な結末”が何を意味するのかをロシアに示したものと考えられます。

その内容を見て驚くと同時に「本当にここまでの覚悟がNATO加盟国に出来ているのだろうか?」と感じています(そして「NATOに今後、定期的に参加する」と表明した日本は、このようなNATOの方向性を支持できるのかと不安にもなりました)。

NATO加盟国間にも当たり前のように温度差がありますが、10月20日に表明された英国トラス首相の辞意は、これまで対ロ強硬派の急先鋒と思われてきた英国の方針を変え、今後NATOの結束にも影響を与えるのではないかと懸念されていますし、実際に微妙だった欧州各国の対応のバランスを崩すことになるだろうと見られています。

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