求められるガイドライン
世界を見渡せば、事件報道におけるさまざまなガイドラインが存在。
たとえば、複数のメディア業界の専門家が作成したレポート(*5)では、とくに乱射事件報道の留意点を次のようにまとめた。
- 暴力事件の報道は、他者の精神状態や行動に影響を与えうることを把握する
- 被害者を支え、将来の事件を防止するために報道する
- 精神疾患に対する誤解や偏見を深めるような報道は避ける。精神疾患の診断が必ずしも暴力と因果関係があるわけではないことや、精神疾患を抱えながら生活している人の多くは非暴力的であることを明示する
- 事件を単純化したり、センセーショナルに報道することを避ける。暴力行為には複雑かつ複数の動機があることを説明する
- 被害者を非難しない
- 他の人が加害者に共感したり、感化されたりする可能性があるため、加害者についての報道は最小限に留める
- 加害者の写真を過度に拡散しない(ただし加害者が確保されていない場合を除く)
- 加害者の写真と被害者の写真を並べることを避ける
- 映像の使用は繊細かつ慎重におこなう。逆に犯行現場の生々しい映像は使用しない(*6)
求められる「アウトリーチ」型メンタスへルス・ケア
惨事報道による心の対処法としては、まずは適切なメンタルヘルス・ケアが有効であるが、しかし日本のメンタルヘルス障害の有病率は、8.8%とイタリア(8.2%)についで低い水準。
他方、フランスは18.4%、アメリカは26.4%だった。低い有病率の背景には、「スティグマ」ともいう、日本独特のさまざまな社会的偏見が見え隠れする。
これに対処する方法として、たとえば「アウトリーチ」型のメンタルヘルス・ケアが有効だろう。
アウトリーチ(Outreach)は直訳すると、「外に手を伸ばす」ことを意味するが、福祉支援の分野では主に、
「支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、行政や支援機関などが積極的に働きかけて情報・支援を届けるプロセス」
のことをいう。
アウトリーチは、メンタルヘルス分野でも近年、注目。たとえば、一般社団法人コミュニティ・メンタルヘルス・アウトリーチ協会が存在(7)。
アウトリーチという切り口で、メンタルヘルス支援ニーズがある人を中心に、社会的孤立状態にある人たちが地域の中で自分らしい暮らしができる社会の実現を目的とする団体だ。
■引用・参考文献
(*1)西日本新聞 2022年7月21日付夕刊
(*2)東京新聞 2022年3月7日付朝刊
(*3)東京新聞 2022年3月7日
(*4)Masahiko Teshima「無差別殺人・傷害事件から考えるメンタルヘルスの問題」Rolling Stone 2022年1月27日
(*5)「Recommendations for Reporting on Mass Shootings」
(*6)「メディアは、惨事情報をどのように報道するべきか?」The HEDLINE 2022年9月15日
(*7)一般社団法人コミュニティ・メンタルヘルス・アウトリーチ協会
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年11月6日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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