それでも、事態が切迫していると考える日米の安全保障専門家は多い。元国家安全保障局次長の兼原信克氏もその一人。夕刊フジの記事に掲載された兼原氏の主張の一部を抜粋した。
習氏は、幅広い国際的知見や、複雑な現代経済運営のノウハウを持たない。鄧小平を超えたと自負する彼が、毛沢東を超える偉人となる方法は「台湾併合」しかない。自由の島となった台湾人のほとんどが、独裁中国との併合など望んではいない。ならば答えは武力行使しかない。
兼原氏は、習近平氏が力ずくで台湾併合をはかる可能性が高いと指摘。そのうえで、以下のような状況を予測する。
今、台湾有事になれば、無能に近い日本のサイバー防衛を突破した中国軍のサイバー攻撃が、沖縄や九州の電力をブラックアウトさせるであろう。(中略)米軍は、中国の「A2AD(接近阻止・領域拒否)戦略」の下で、ずらりと並んだ対艦ミサイルや爆撃機を恐れて、はるか太平洋の遠方から飛び道具で応戦する。(中略)前線にいる日本の自衛隊はそういうわけにはいかない。巨大な中国軍と正面で対峙するのは、わが自衛隊である。
米国が軍事介入したとしても、日本の自衛隊を前線に立たせ、米軍ははるか太平洋の遠方から参戦するだけだろう。だからこそ、日本を守る自衛隊の飛躍的な能力増強が必要だ、というのが兼原氏の結論である。
しかしこれは、米側のいいなりになって集団的自衛権の行使を容認した結果、日本は台湾有事の際に最前線に立たねばならないところに追い込まれた現実を物語っている。
安倍元首相を米国側から操ってきたのが「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれる米国人たちだ。代表的なのが、米シンクタンク「CSIS」のリチャード・アーミテージ(元国務副長官)やジョセフ・ナイ(元国防次官補)、マイケル・グリーン(ジョージタウン大学外交政策学部教授)の各氏。彼らと安倍氏の親密な関係はよく知られている。
2020年12月7日に公表された「アーミテージ・ナイ報告」は、日本の防衛費について、「GDPのたった1%で、中国の国防予算に比べるとごく僅かな額である」と指摘した。ちなみに20年度の中国の国防費はGDPの1.75%だった。
こうした米国からの圧力と、自民党内のタカ派議員の突き上げを受け、戦後、政府が一貫して「持たない」としてきた「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を持つことにしたのが、今回の防衛政策大転換だ。倍増させる防衛費の使途について、岸田首相は「端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということです」と言明した。
実際に攻撃を受けていなくとも、着手したと判断すれば、こちらから攻撃できる「反撃能力」の保有で、相手に攻撃を思いとどまらせる「抑止力」を得られると言うが、本当だろうか。日本にとっては単なる気休めに過ぎず、相手国から見れば、攻撃材料になるだけではないのだろうか。
日本を守るという観点からいえば、危機的状況にある少子化問題も、いよいよ切迫してきた。今年の出生数は過去最少を更新し、初めて80万人を割り込む見通しだ。このままでは国の衰退は避けられない。
岸田首相は子ども関連予算の「倍増」も目玉政策に掲げてきたはずだが、こちらの「倍増」は先送りされた。岸田首相は声の大きいほうにばかり「聞く力」を発揮しているのではないだろうか。
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