週3回2時間だけ開店する東京・神楽坂「夜のパン屋さん」を取材して見えてきたこと

 

どこが「夜のパン屋さん」を運営しているのか?

「夜のパン屋さん」を経営するのは、有限会社ビッグイシュー日本(本社・大阪市)。良質な雑誌「ビッグイシュー」をホームレス、ネットカフェ難民のような生活困難者が独占的に路上で販売することにより、仕事を提供して、自立を支援する社会事業を行っている。

1991年、英国のロンドンで生まれたビジネスで、日本では2003年より発行している。

ところが2020年になって、コロナ禍により英国で緊急事態が発出されて、ロックダウンにより路上販売ができなくなった。これは日本にも波及すると、路上販売に代わる別の支援事業を考えなければならない局面となった。ちょうど篤志家から、まとまった金額の寄付があり、事業資金に使える幸運に恵まれた。

雑誌の長年の寄稿者で関係団体のNPO法人ビッグイシュー基金の共同代表でもある、料理研究家の枝元なほみ氏に相談。枝元氏は北海道帯広市のベーカリーショップ「ますやパン」が、十勝地方の7店で売れ残ったパンを集めて、夜に本店で売る取り組みをしていることに注目。同じようなことが、東京でできないかとアイデアを出した。ちょうど、SDGsの観点からフードロスが問題視される風潮となって時流にも合っていると、「夜のパン屋さん」のプロジェクトが始まった。

「対面販売が得意な人は売り子に。そうでない人には、売れ残ったパンをピックアップしてもらうという分担で始めました」とビッグイシュー・広報担当の佐野未来氏は振り返る。

オープン日は、「世界食糧デー」の10月16日。

当初は、企画の趣旨をベーカリーショップに説明に行っても、なかなか理解してもらえず、パンの仕入れ先の開拓に苦労した。飛び込み営業で2軒を開拓した以外は、枝元氏の伝手で商品を調達していた。

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ところが「夜のパン屋さん」の賑わいや、困窮者支援、食品ロスに取り組む趣旨が報道された効果もあり、今では約20軒のベーカリーショップの賛同を得て、商品を販売するようになった。遠く北海道や静岡県から、冷凍で届くパンもある。

その日にどの店の商品を売るのかは、当日オープン前に、ツイッター、フェースブックで告知される。発表を楽しみに待っていて、お目当てのベーカリーショップの商品を買いに来る常連客もいる。

顧客層は、神楽坂店では通勤、通学の帰りに立ち寄る人が多い。飯田橋店は子供連れの母親に人気で、近隣の住民も訪れる。田町店では、ビルの管理会社から賑わいをつくり出したいからと誘致されたが、好調なので「昼のパン屋さんもできないか」と相談されている。

パンはお得なセットを除いて値引は行わず、売れた分の半分を、仕入先に還元している。商品の調達先は地元で評判の店ばかりなので、ほとんど売れてしまうが、売れ残った場合は子ども食堂や無料学習塾などを中心に、他の団体に届けておいしくいただいてもらう。いずれにしても、食品ロスで廃棄されるパンはゼロとなっている。

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2周年記念事業として、2022年10月15、16日の土日には、「代官山T-Site」にてポップアップストアを出店。

また、22年11月5日には、練馬区の「けやきの森の季楽堂」にて、枝元氏のオリジナルランチや夜にパンが楽しめるカフェイベント、第1回の「ヨルパンB&Bカフェ」を開催した。これから月に一度、開催していく計画だ。このプロジェクトは、MINIが取り組む、日本が抱える課題を解決するクリエイティブなアイデアを応援する、「BIG LOVE ACTION」のサポートを受けている。

さらに、11月3日には、札幌市の「Seesaw Books」にトライアルオープン。東京都以外では初出店となった。以降、月に1度のペースで「夜のパン屋さん☆札幌」を開催している。

「夜のパン屋さん」は、食品ロスの解消、貧困の解決、零細ベーカリーショップの経営安定、地域コミュニティの維持など、多くの機能を持った実験的な取り組みだ。今後の発展に期待したい。

 

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