噛む力が弱くなった訳は火を使った料理?池田教授が考える「人類の自己家畜化」

 

次に、病気への耐性が低下するという話はどうだろう。飼育動物は人為的に交配させられるので、遺伝的に極めて偏った品種を作ることが可能で、その結果、病害虫への耐性が低下し易い。人間は選択的に交配させられることは通常ないし、病気になり易い遺伝子は自然選択の結果、淘汰されていくので、病気への耐性が低くなることはないと考えられる。

しかし近年になり、医学の進歩に伴って、病気になり易い遺伝子を持っていても、治療によって生き延びて子孫を儲けることが可能になり、人類個体群の遺伝子組成を自然選択とは別のやり方で、改変することができるようになった。例えば、血友病の遺伝子を持っている人は、かつては比較的早死にで、子孫を作る人は稀であったが、治療薬の進歩により、子孫を残す人も多くなり、その結果、血友病の遺伝子は人類個体群の中から消えにくくなった。

これとは逆に、出生前診断などにより、病気になり易い遺伝子を、個体群中から人為的に除去することや、将来的には遺伝子編集などの技術の進歩により、優れている(と思われている)遺伝子を導入することも可能になるかもしれない。これは現代版の優生学で、別の書物で論じたことがあるが(『「現代優生学」の脅威』インタ─ナショナル新書 集英社 2019)、こういった人類個体群の遺伝子組成への介入も、一種の自己家畜化と言えないこともない。

火を使って料理をすることによる咀嚼機能の低下、医療の進歩による人類個体群の遺伝子組成の変化などは、しかし、人類の自己家畜化としてはむしろ些末な部類であろう。さらに重大な自己家畜化は、食物生産の方法を飛躍的に進歩させたことと、食物の分配システムを構築したこと、食以外の生活環境を改善したこと、そして、精神的な面では、自立性の低下と従属性の増大があげられるだろう。(『池田清彦のやせ我慢日記』2023年3月10日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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