日韓関係の改善を受けての韓国側の雰囲気を木村幹・神戸大学大学院教授はニューズウィーク日本版(4月3日)「日韓戦の勝敗に一喜一憂した、『かつての韓国』はもはや存在していなかった」との記事でこう伝えた。
韓国はナショナリズムの強い国として知られ、かつてこの国を支配した日本はその主たるターゲットだった。だからこそ、スポーツにおける日韓戦にも強い関心が向けられ、韓国人は勝敗に一喜一憂した。勝利した際には強さを誇り、敗れたときにはふがいなさを悲憤慷慨し、来るべき試合での勝利を誓ってきた。しかし、2023年3月の韓国にはその状況は存在しなかった。
さらに木村教授は、日韓関係改善の前提となった徴用工裁判をめぐる政府の解決策への反対運動について、街頭で決定に反対するデモはあるが、これまでの日本批判ではなく、韓国政府への批判であり、かつては安倍晋三首相のプラカードにバツ印を付けて抗議したような非難もなく、デモには岸田文雄首相の「姿」はみられないという。
木村教授は、この行動を「それが韓国の人々が日韓関係を冷静に考えられるようになった証しなら、それはきっと良いニュースなのだろう」と評価する。
「あの日に戻れたら」と思い続けた私にとってもそれは良いニュースだと思いたい。文化の全面においてそれぞれのアーティストを受け入れ、尊重し合い、政治における鍔迫り合いとは距離を置く状況はいつしか融合していくだろう。
その過程では1世紀以上前、日韓併合により植民地化した日本政府が朝鮮半島の自由を奪い、様々な苦難を与えてきた歴史があることを忘れないでおきたい。その史実を当事者視点でくみ取りながら、良好な関係を築くのは後世を生きる私たちの責務である。
その責務を担い、変化する社会、交流する文化と若者たち、新しい感覚とコミュニケーション環境の激変を自覚しながら、未来に向かい現実的な対応をする。新しい日韓関係を築くには今が好機である。
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