読む人の心をざわつかせない。なぜ文筆家は「静かなサイト」を作ったのか?

 

■メモリ的な軽さ

上記のようにカーム・サイトは情報的に「重くない」ものを目指しますが、その副産物としてプログラム的にも「重くない」ものになります。

UIがシンプルなので使われるJavaScriptも最小限です。広告を表示するためのコードや画像を読み込むためのコードも不要です。ページの切り替えも素早く行えますし、Cookieなども使っていないのでそのための処理もまったく不要です。

結果的に最近のWebのリッチなページからはほど遠いものができ上がっています。利便性も至らないところがたくさんあるでしょう。でも、自分が書いた文章をWebを経由して他の人に読んでもらう、という目的であれば十分に満たせる程度の機能は備わっています。必要最低限のファンクション。それだけで構成されているのです。

これはまた閲覧時の処理の重さの問題だけではありません。その環境を管理する手間の「重さ」にも関係しています。

たとえば、Textboxシステムを使った記事の「更新」作業を考えてみます。私はまずテキストエディタで記事の本文をマークダウンで書き、その記事のタイトルをファイル名にして保存します。次に、index.mdなどどこでもいいので、その記事のリンクを載せたいページのmdファイルに先ほど書いた記事タイトルのリンク(ダブルブラケットでタイトルを囲ったもの)を追記します。

あとはその二つのファイル、つまり新しい記事とその記事へのリンクを追加した既存の記事のファイルをサーバーにアップロードすればそれで完了です。サーバーへのアップロードはターミナルからコマンドを叩けば実現できるので、実質私がやることはそうしたコマンドをまとめた「make」というコマンドを叩くだけです。

それで記事がWebにアップされ、他の人から読めるようになります。

Textboxシステムではこれ以外のことは何もできませんが、個人的にはこれだけできれば十分です。記事のデータを保存するデータベースも不要ですし、mdファイルからHTMLファイルを生成する変換もいりません。ただ本文の文章を書いて、それをアップするだけ。

それでできあがるのは、おそろしく原始的な「Webサイト」なのですが、原始的であって何が悪いのだと開き直ることは可能でしょう。というか、はたしてそれは「開き直り」なのでしょうか。利便性を求めて次々にバージョンアップしていくツールは、本当に私たちが必要としているものなのでしょうか。

Textboxシステム、あるいはカーム・サイトを目指すという試みは、そうした状況を批判的に捉え直す問題提起だと言えるかもしれません。ちょっと大げさかもしれませんが。

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1980年生まれ。関西在住。ブロガー&文筆業。コンビニアドバイザー。2010年8月『Evernote「超」仕事術』執筆。2011年2月『Evernote「超」知的生産術』執筆。2011年5月『Facebook×Twitterで実践するセルフブランディング』執筆。2011年9月『クラウド時代のハイブリッド手帳術』執筆。2012年3月『シゴタノ!手帳術』執筆。2012年6月『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』執筆。2013年3月『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』執筆。2013年12月『KDPではじめる セルフパブリッシング』執筆。2014年4月『BizArts』執筆。2014年5月『アリスの物語』執筆。2016年2月『ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由』執筆。

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