ホンマでっか池田教授が説く「コオロギ食」バッシングの背景とは

 

それ以外にも、伝統的な昆虫食として有名なのは、天竜川のザザムシで、トビケラやカワゲラの幼生、マゴタロウムシ(ヘビトンボの幼生)などで、かつては大変人気があって、採集するには地元の漁業組合が発行する鑑札(許可証)が必要であった。イナゴ、蜂の子、ザザムシはつい最近まで、缶詰にして市販されていたが、最近はあまり見ないので、製造を中止したのかもしれない。

カミキリムシの幼虫は美味として知られ、薪を割ったときに中から転がり落ちる白い幼虫は、上等なおやつとして珍重されたが、大量に取れないので、市場に出回るまでには至らなかったようだ。それに対してセミは果樹園などで大量に採集できるので、長野県の園芸試験場ではかつてセミの唐揚げの缶詰を作っていたことがあった。あまり売れなかったようで、今は作っていない。

しかし、西洋の食文化が浸透するに及び、いつしか昆虫食はマイナーになり食べる人が激減した。虫は気持ち悪いという人が増え、特に女性の中には食べるどころか見るのも嫌だという極端な虫嫌い(Insect phobia)の人が現れて、この感情は家庭の中で子供に伝播するので、多くの日本人にとって虫は気持ちが悪い生き物になった。

ずいぶん前に、東京ドイツ村という、東京でもドイツでもない千葉の片田舎のテーマパークで、草薙剛さんやトリンドル玲奈さんほか10人くらいのタレントと一緒に、園内の虫を捕まえて、その虫たちに私が点数をつけて(珍しい虫は高得点、普通種は低得点)、捕らえた虫の総得点を競うという、たわいないテレビ番組に出たことがあった。

クヌギの古木の洞にはゴキブリがいっぱいいるのだが、たった一人の出演者を除いて、誰もゴキブリを捕まえてこない。ただ一人山ほどゴキブリを手に持って私に見せに来たのは、トリンドル玲奈さんであった。ウイーン生まれの彼女は、小さいときにゴキブリを見たこともなく、ゴキブリに何の偏見もないので、怖くもなければ気持ちが悪くもないのである。

多くの日本人がゴキブリを嫌うのは文化的偏見だということがよくわかる。あまつさえ、かつて、巷間ではゴキブリはポリオのウイルスを伝播するといったまことしやかなうわさ話が流行っていたので(現在、この話は科学的に否定されている)、ゴキブリが蛇蝎のように嫌われるのも無理はない。

この記事の著者・池田清彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • ホンマでっか池田教授が説く「コオロギ食」バッシングの背景とは
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け