“自ら望む”理不尽。KADOKAWAの五輪汚職に見る「日本的マゾヒズム」

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6月26日付の朝日新聞に掲載された、「できなかった 内部通報」と題された記事。KADOKAWAの五輪汚職の調査報告書を報じたものでしたが、そこには「我が国特有」と言わざるを得ない社員の心の内が記されていました。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、健康社会学者の河合薫さんが記事の内容を紹介するとともに、パワハラでも同じ構図が起きていると指摘。その上で、なぜ日本でこのような状況がまかり通るのかについて考察しています。

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

出版大手KADOKAWA五輪汚職に見る、報復を恐れて傍観者になる「日本の病理」

今回は6月26日付の朝日新聞が取り上げた、出版大手KADOKAWAの五輪汚職に関する調査報告書の内容から、あれこれ考えてみたいと思います。

記事は、同社元会長の金銭授受が知財法務部から賄賂にあたる可能性を指摘され共有されていたのに、「なぜ、法律で保護されている内部通報を活用できなかったのか?」についてまとめたものです(以下、記事より抜粋し要約)。

調査委員会が行ったヒアリングに対し、「止めましょうと言えなかった」「関わりたくない、と申し出て関わらなかった」「必ず(誰が内部通報したか)バレる。報復人事を恐れないわけがない」「左遷されるなり人事上の不利益を被るだけ」などの意見が相次ぎ、中には内部通報制度を知らない社員も少なくなったとか。

読んでいるだけで暗澹たる気分になりました。いったい何のための内部通報なのでしょうか?とはいえ、これって内部通報だけじゃないな、と。同様の構図はパワハラでも起きているのですよね。

ハラスメントを通報する社内のコンプライアンス委員会はあるのに、報復人事が怖くて通報できない。勇気を出して通報しても、コンプライアンス委員が忖度する。仮に通報したところで、「当該行為は確認できなかった」「本人にヒアリングをしたがパワハラとは断定できない」などと言われるがオチ。これは私が実際に「ハラスメントされた人」「身近なハラスメントを相談された人」から繰り返し聞いてきたフレーズです。

相談窓口~と、通報窓口~、というものを国も企業も、問題が発覚→なんとかしなけりゃ!となるたびに好んで作りますが、つまるところ、組織で生き残る最善策は「長いものに巻かれろ」であり、「さわらぬ神にたたりなし」とばかりに傍観者に徹する精神が、日本人に、日本の会社員に、とことん刷り込まれてしまっているのです。

だからこそ「罰則規定」が必要なのに、それも機能しない。“大きなモノ”を守るために、政治家は罰則を法律に入れたがりません。

内部通報した社員を守るために2006年に施行された「公益通報者保護法」には
「通報を理由に解雇や降格、減給などの不利益な扱いを禁止する」と書かれて
いますが、罰則規定はなし。「パワハラ禁止法」では、職場におけるパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主に義務付けられていますが、パワハラそのものを禁止するという文言は最後まで盛り込まれませんでした。

法律はいったい誰のためにあるのか?法律がなぜ、必要なのか?

その原点がないがしろにされた、穴だらけの法整備しかやらない、やりたがらないのが、日本という社会の病巣なのかもしれません。

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