筋肉痛といえば、ハードな運動の後に襲われるという認識が一般的。ところがそんな覚えがないのに、歩行困難になるほど激しい筋肉痛が発症することもあるようです。今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』では糖質制限提唱医として知られる江部康二先生が、そんな症状を訴える読者を誌上診断。過度のアルコールや糖質摂取により起きる「横紋筋融解症」の疑いがあるとして、その発症システムを解説しています。
過度の糖質、アルコール摂取で「筋肉痛」に驚愕。筋肉が壊れた時に出る酵素の数値が“何万倍”の高値に
Question
糖質制限歴約3年の50歳女性。最初の半時で25kgの減量に成功。現在もほぼキープできています。
2か月に一度くらい糖質制限を解除し、糖質やお酒を多く摂ります。
8か月ほど前に、いつもの解除時のように糖質とアルコールを多量に摂取したところ、ふくらはぎの激しい筋肉痛に襲われ、歩行困難になりました。
その後も糖質多量摂取の度に、同じ症状が現れます。アルコール摂取を控えめにしても同様です。
医院で検査したところ、筋肉が壊れた時に出る酵素(?)の数値が何万倍とのことでしたが、原因となる病変は見つかりませんでした。
こういった症状は他にも見られるのでしょうか?
ドクター江部からの回答
横紋筋融解症と思われる症状です。
この時は、CK(CPK)という筋肉細胞が壊れたとき上昇する酵素が異常に高値となったようですが、過度のアルコール摂取が誘因となり、横紋筋融解症を発症したと考えられます。
横紋筋融解症は、スタチン系薬剤(コレステロール低下剤)などの副作用として有名ですが、過度のアルコール摂取でも生じるようです。
横紋筋融解症は、骨格筋細胞に融解や壊死が起こり、筋肉の成分が血液中に流出してしまう病気で、筋肉痛と筋力低下が必発です。
熱中症、長時間の運動、過度のトレーニングなどでも横紋筋融解症を起こすことがあります。
この方の症状は<過度のアルコール+過度の糖質>のダブルパンチで、かなり重症に陥ったものと考えられます。
糖質過剰摂取で血糖値が上昇するとインスリンの過剰分泌を生じ、筋肉細胞中に血糖を取り込みエネルギー源としたあと、グリコーゲンとして蓄積します。
このグリコーゲン生成の過程で細胞内にカリウムが移動して、血中のカリウム濃度が低下することがあります。
低カリウム血症があると筋肉痛を生じることがあります。
インスリンは血中のブドウ糖を細胞内に取り込んで血糖値を下げます。
この際ブドウ糖が細胞内に取り込まれる過程で、血清中のカリウムが同時に細胞内に取り込まれます。
この性質を利用して高濃度ブドウ糖液とインスリンを同時投与することで、血清中カリウム濃度を下げようとする治療法を、グルコース・インスリン療法といいます。
高カリウム血症で、危険なときは、グルコース・インスリン療法により血清カリウム値を低下させるのです。
ともあれ、「ブドウ糖-グリコーゲンシステム」が働かなくなるようなことはありません。
低カリウム血症は、徐々にくれば、症状もゆっくりです。
しかし、糖質のどか食いで、大量のインスリンが分泌されて、細胞内にカリウムが移動して、急激に低カリウム血症になれば、筋肉痛が生じてもおかしくありません。
過度のアルコール摂取も、過度の糖質摂取も、注意が必要です。
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