世界中で猛烈な勢いをもって進むEVシフト。その流れに乗り遅れたとされる日本の自動車メーカー各社ですが、こともあろうに日本政府が国内での中国製EVの普及に「手を貸す」事態が起きているようです。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんがその事実を明らかにするとともに、政府に対して至極真っ当な要望を突きつけています。
日本政府が日本の自動車産業を潰すまでのプロセス
私がモスクワに行った1990年、ロシア国民の夢は、「日本製の家電で家を埋め尽くすこと」でした。
私は当時、知り合いのロシア人に、「日本車は?」と尋ねました。すると、皆口をそろえて、「それは、難しすぎて夢にもならん」と言いました(今モスクワは、日本車、ドイツ車だらけになりましたが)。
そう、1990年当時、世界には日本製品があふれていたのです。
ところが…。いつ頃からでしょうか?世界市場で、日本の家電はシェアを落とすようになっていきました。はっきりは覚えていませんが、20年ぐらい前でしょうか。
日本を代表する家電メーカーP社の社員が、「韓国に負けそうだ」と泣き言を言っているという話を聞きました。私は、「冗談だろう!?」と仰天したのをよく覚えています。
モスクワの家電量販店では、日本製が徐々に駆逐され、韓国、つづいて中国製が目立つようになっていきました。
日本製が中国製に駆逐されたプロセス
思い出してみてください。1990年代、まだ中国製品は、「安かろう悪かろう」と思われていました。中国製の服は激安ですが、「買ったその日にボタンがとれる」といった感じでした。「中国製を着るのはちょっと恥ずかしい」という感覚もあったでしょう。
いつから「中国製全然OK」になったのでしょうか?1990年代末にユニクロが大人気になったことがきっかけでしょう。ユニクロのフリースは1998年200万枚、99年850万枚、2000年2600万枚売れたそうです。これで、「メイド・イン・チャイナでもいいよね」となった。
要するに、日本の会社が中国で安く生産し、日本が逆輸入する。日本企業が、「メイド・イン・チャイナ」の信用を上げたのです。
それから20年以上の月日が流れました。アパレル業界はどうなっているのでしょうか?
「シーイン」という会社があります。私にはよくわかりませんが、「めちゃくちゃ安くてかわいい」と若者に人気なのだそうです。
シーインの特徴について、小島尚貴先生は、最新刊『脱コスパ病 ~ さらば自損型輸入』の中で、
「企画、デザイン、開発、縫製、検品、流通、広告、営業、販売、顧客フォローまで、一つも日本企業の関与なく完成させた」という点にあります。
(59p)
と書かれています。
少し流れを振り返ってみましょう。まず、日本企業が日本で作る段階がありました。ところが日本企業の一部が中国で製造し、「安くて質もまあまあ」の製品を作り、逆輸入した。日本企業が、「メイド・イン・チャイナ」の信用を上げた。
次の段階として、「中国企業が中国で生産した製品を、日本に輸出する」。日本企業は、一切関わっていない。皆さん、どうでしょう?シーインは、ユニクロに勝てるでしょうか?
小島先生はシーインの未来について、
日本人が現代中国を見る時は、どんなことを見聞きしても、最初は油断して見下します。
前作で大きな反響を集めた熊本の「い草、畳表」の事例でも、国産農家と自治体は油断で大敗北を喫しました。
同じパターンで、後に白物家電、パソコン、スマホもやられました。
(61p)
と警告されています。