アニメ化でさらに話題の『葬送のフリーレン』が少年漫画だと言い切れる理由

 

■長寿の視点

日本式のファンタジーの場合、エルフという種族はたいてい長命種として扱われる。人間ならせいぜい80年くらいの寿命だが、エルフの場合は100年どころか、1000年以上も生きるとされる。フリーレンというエルフもまた同様だ。

彼女も人間よりはるかに長生きなのである。人間にとって10年にも及ぶ冒険の旅は決して忘れえない人生のイベントになるだろうが、彼女にしてみれば人生の100分の1ほどの出来事でしかない。

この作品の最初のポイントはここにある。人間の時間感覚と、エルフの時間間隔の違い。それを対比させることによって、むしろ私たち人間の人生観を揺さぶってくる。

そうした構図はSF作品によく見られるものだ。まったく異なる文明を持つ異星人と人間を出会わせることで、自分たちの文明そのものを「異化」する視点を手に入れる。虚構ならではの仕組みだろう。

1000年どころか100年生きることすら怪しい人間は、その短い生をまっとうしようとする。人間にとってそうした営みは当たり前すぎて見えてこない。エルフという視点を通すことではじめてそこにある「当たり前」が浮かび上がるのである。

■使命とサイクル

それだけではない。

人は自分たちの寿命が短いからこそ、後世に何かを残そうとする。子孫に思いを伝え、銅像を建て、書物に記す。思いを残そうという思いと、思いを引き継ごうという思いの二つが、人間という営みを続けさせていく。

そうした情報のやりとりは、技術の発展も支える。生と死のサイクルが短いほど、変異の幅も広がっていくのと同じように、技術の発展は個人に閉じることではなく、むしろその技術が情報として世界中に伝播しながら広がっていくことによって起きている。

魔法に長けたエルフよりも、人間社会の魔法の方が優れているという描写によって本作品はそうしたメッセージを伝えているのは興味深い。また、フリーレンは趣味としてさまざな魔法を収集しているのだが、そうした描写もまた人間社会において突然変異的に奇妙な魔法が生まれていることを示しているだろう。

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