日本は今や「デジタル後進国」に。かつて先頭集団にいた我が国はなぜDXで出遅れてしまったのか?

 

マイナカードを事例として説明しましたが、トップダウン恫喝命令型のスタイルは、フラットな全員参加型のデジタル時代にはなじみません。たとえば、3.11の時にグーグルが矢継ぎ早にローンチした「パーソンファインダー(安否確認用ツール)」などの災害救済用ツールは、グーグルの危機管理本部などがトップダウンで命令して作らせたものではありません。当時グーグル日本法人に在籍していたウェブマスターの1人が、周囲に呼び掛けるところから世界中のグーグラーに協力の輪が広がって、グーグル内の草の根活動の成果で次々に開発されたものです。グーグルのトップマネジメントはその動きを止めたりせずに積極支援しました。また、オードリー・タンが台湾でやったようなスタイルも、裏方的に縦割り省庁の弊害や政府と国民の間の距離を、民間のシビックハッカーなどの協力も得ながらデジタルを使って解消するといった草の根的なやり方でした。日本のデジタル庁のやり方とはまったく違います。

デジタル時代の問題解決手法としては、最初から完全解を求めるのではなく、アジャイル型というか、まずは出来るところから小さく始めて、走りながら少しずつカバー範囲を広げ中身を改善していく、というスタイルが良いと思います。往々にして日本人は完璧主義の傾向が強く、最初から完全解を求める意識が強いので、それもDXの阻害要因になります。最初は30%でも、それを走りながら結果を見つつ軌道修正して、徐々に50%にし、70%にし、100%に近づけていく、というやり方が好ましいと思います。

そしてそのためには、従来のITゼネコン体質から脱却して、何でも当事者として自分たちでやる、という「ハンズオン体質」が求められます。日本の大企業では、偉くなるにつれてハンズオフになっていきます。コピーや電話やスケジュール管理もすべて秘書任せで自分では身の回りのことすら何も出来ない、という昭和型のトップも未だに少なくないと思いますが、それではDXは決してうまくいきません。

そしてこれも重要なことですが、デジタルとオープンは表裏一体です。オープンがデジタルを進化させ、デジタルはオープンを容易にするという関係にあります。特にクラウドの時代になってからはそうです。そしてオープンは信頼という面でも重要な概念です。しかし、従来の日本の体質は隠蔽体質といえます。特に昨今の政治の世界では、オープンガバメントどころか、どんどん隠蔽体質が強まっています。政府も検察も裁判所も、都合の悪いことはとにかく隠す(公文書改竄、廃棄、のり弁、捏造、etc.)という体質は、デジタルのネイチャーとは真逆で、DXの最大の阻害要因でもあると言えるでしょう。

以上、「DXとは何か」の第1回目では、「意識改革」の重要性について説明しました。DXを推進する上での障害が理解できれば、組織や社会でDXや、冒頭述べた次のステージであるAIXをうまく推進することも容易になるのではないかと思います。次号以降もしばらくDXやAIXの話を続けていきます。

※本記事は有料メルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2024年4月12日号の一部抜粋です。つづきに興味をお持ちの方はこの機会にご登録の上、4月分のバックナンバーをお求め下さい

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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