人材の種類が固定化し非連続な改革がしにくくなっている政官財界
明らかに経済的な困難を経験してきたが、潜在能力の高い人材を発掘して有為な人材として国家や国の経済に貢献させる仕組みが無いのです。これは非常に大きな問題だと思います。明治維新や戦後復興のような非連続な改革をやるには、そうした人材が欠かせないのですが、制度として全くないのです。
その結果として、財界や政官界の主要なポストは、通塾の結果として首都圏の一貫校から上位の大学に進んだ階層が牛耳ることになっています。冒頭に説明した、文化の地方格差のような問題もあり、その比率はどんどん高まっています。
そうした循環の先には、政財界も官界も人材の種類が固定化され、益々非連続な改革がしにくくなっているわけです。翻って、首都圏の「公立中学」の問題に戻りますと、やはりそこには巨大な「ガバナンスの不在」があるわけです。
こうなると、日本のエリート教育やエリート選抜のシステムは、江戸時代のように固定化をしてしまっていると言っても過言ではありません。そう考えると、現在の日本の統治システムは、財政危機と外敵への恐怖に揺れる天保期のような末期的な状況になっている、少なくとも東京はそうなっているのを感じます。
例えばICTの普及が東京がイマイチであるのは、よく考えると納得がいきます。小学校段階では通塾生は学校では「お客さん」なので、保護者もICT推進への期待はしません。また、中学の場合は、上位層の抜けた後なので、やはり学校全体の士気は活性化が難しいわけです。
その一方で、伝統的な一貫校の場合も、最上位校のグループでは、学校は「行事や部活の思い出つくり」の場で、学習は「鉄緑」等の外部でやるわけです。また多くの国立や私立の教員人事は流動性も低い中では、ICTへの動機は強くないわけです。新しいことに飛びつきたがるのは、一部のアグレッシブな新設一貫校とか、国際志向、共学化でリブランディングといった学校が中心ではないかと思うのです。
そう考えると、現在の日本における教育格差の問題を考えると、一番「いびつ」であるのは首都圏ということになります。そして、そこにはあまり希望はありません。東大の法科で霞が関の人気が低下して、マッキンゼー(この変わったファームが新卒を採るというのがイマイチ理解できないのですが)とか、ゴールドマンに流れるというのも末期的です。
こうなると、人材育成という観点から考えると、本当に地方で真剣な取り組みをして、幕末のようなムーブメントを起こすということに、日本の希望を託すしかないのかもしれません。現在の日本はあらゆる問題が成熟していて、危険な均衡状態にあり、非連続な改革に耐えうる体力はありません。
そうなのですが、それでもその均衡を必死で維持するにしても、相当な人材力が必要です。だとしたら、そうした人材は貴族化した首都圏の2世3世ではなく、地方から探していく時代になっていくのかもしれません。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2024年5月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ
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