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三重県鈴鹿市で隣人が隣人を訴えた裁判の結末

日本は、弁護士の数は年々増えているものの、地方裁判所が受理する民事訴訟の件数は増えていない。平成21年前後は少し多かったが、これは法律事務所がこぞって「過払い金返還請求」で儲けていた時期で、いまは元の水準にもどり、先進国では圧倒的に少ない。

弁護士界や「契約」が前提の経済界から見ると、「日本は裁判へのハードルが高く、泣き寝入りが多い」という解釈になるようで、新聞もそのように報じている。

だが、制度としては導入されていても、「裁判を受ける権利」という感覚そのものが、日本の庶民に馴染まないことが最大の理由ではないかと思う。

欧米は、事件や事故だけでなく、「隣人訴訟」も非常に多い。

となり近所、職場、友人、家族間でも、ケンカ代わりに訴訟を起こすのだが、日本でそれをすると非難の的になる。

昭和52年に、三重県鈴鹿市で隣人が隣人を訴える事件があった。

A家とB家は仲が良く、日ごろから子供たちがお互いの家を行き来していた。ある日、買い物に出かけようとしたAさんが、Bさん宅へ3歳の子供を迎えに行ったが、子供どうし遊びたがって帰りたがらなかった。Bさん夫妻が「うちで遊ばせておけばいい」と言ったので、AさんはBさん宅に預けて出かけることにした。すると、Bさん夫妻が仕事で目を離した隙に、子供たちが近くのため池へ遊びに行き、Aさんの子供が溺れて死んでしまったのだ。

Aさんは、子供を預けたBさん夫妻を訴えた。

一審の地裁は、Bさん夫妻の責任を一部認めて損害賠償の支払いを命じ、Bさん夫妻は控訴となった。

ところが、この判決がマスコミで報じられると、Aさん宅には「隣人の恩を仇で返すつもりか」など非難の手紙や嫌がらせの電話が殺到。これに耐えかねたAさん夫妻は訴えを取り下げた。

すると、今度は、当初は激励されていたBさん夫妻が、控訴したことに対して非難を浴び、こちらも訴えを取り下げた。Bさん夫妻は電気工事店を営んでいたが、その後、一切仕事が入らなくなったという。

マスコミが煽ったことが原因だろうし、そんな嫌がらせをするなよと思うが、当時は、近所に子供を預けて用事を済ませるということが当たり前に行われていた「お互い様」の共同体が残っていた時代でもあった。まさにこの年に、事件の起きた三重県に生まれた私も、日常的に子供だけで近所の家を回遊していたのを思い出す。

すると、その中で起きた痛ましい事故に対して「Aさんが訴訟を起こすのは当然の権利だし、Bさんが応戦するのも当然の権利だ」とは思えず、「え?世話になっていた隣の人を裁判所に突き出す?自分が気軽に預けてしまったことを悔やむのではなくて?」という当時の「世間の常識」の感覚で、この事件に疑問符をつけた人は多かっただろうと思う。

友人だろうと家族だろうと、自分に責任があろうと、犯罪者であろうとおかまいなしで「とりあえず、訴訟起こしてから自分の言いたいことを主張する」アメリカ人の権利意識と、「お互いに常識的に話し合いましょうよ、変にこじれないように」と納めることを考える日本人。

同じ民主主義の国でも、裁判制度への感覚1つ見ても、これほど大きく違いがあるのだ。

――(メルマガ『小林よしのりライジング』2024年9月3日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみください)

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