歴史的な一日。アメリカに冬の時代がやってきたのか?
と思ったら演説はこれでは終わりませんでした。その30分後に、トランプは議事堂内に現れて、共和党の議員団などを前に今度は「原稿なしの」スピーチを行いました。
最初はヴァンスを持ち上げて、「奥さんがすごいので大統領継承順位に加えたいぐらい」などと言っていました。またジョンソン下院議長への称賛など、徹底的なヨイショをやり、その後にメラニア夫人の持ち上げをやっていました。ヴァンス夫人を褒めすぎたのでバランスを取ろうというのでしょう。
CNNは退任したバイデン夫妻が、ヘリでDCを離れてアンドリュー基地に到着した映像と、気楽に放談しているトランプを横に並べて放映していました。しかし、快晴なのに摂氏で零下5度という中、寒風に吹かれたバイデン夫妻はなんともいたわしい限りでした。そのバイデンは、基地内で非公式の退任演説を行っていましたが、CNNはその音声は流さず、映像も切っていました。
それはともかく、トランプの演説は政敵リズ・チェイニー氏の悪口とか、ナンシー・ペロシ前下院議長への悪口など、まったくの放言で政策的に目立った内容はありませんでした。この放言アドリブ演説ですが、最近のこの人の「ラリー形式」の演説もそうですが、放談が止まらなくなり、その割には内容が大したことはないので、冗長な感じは否めませんでした。その間に、どんどん事前にセットしていた大統領令が発動されて、例えばパリ協定からの離脱が宣言されました。
さて、公式な就任演説に話を戻して整理すると、下記の4点に集約されると思います。
1)移民追放と国境厳格化は程度の問題もあるとは言え、相当にヤル気
2)メキシコ湾とパナマ運河の話はしたが、グリーンランドとカナダの問題は言及せずに、話が「火星」に変わっていた。即座にNATOを刺激することは控えた模様
3)驚いたことにインフレ退治を公約した
4)幸いなことに日本については一言も触れず
ということで、とりあえず3)以外は想定内ということだと思います。それにしても、非常に難しいインフレ退治をわざわざこの就任演説で明言するというのは、やはりトランプというのは相当なタマだと言わざるを得ません。と同時に、もしかするとこの点が政治的には失点につながる可能性も残しています。
いずれにしても、この2025年1月20日に歴史は大きな節目を超えました。式典を通じて、そしてその日一杯をかけて米国東部はどんどん気温が下がっていきました。現在は、米国東部時間の20日の午後5時ですが、私の住むニュージャージーは摂氏で氷点下7度、明日の朝は氷点下14度まで下がるようです。アメリカは何か大切なものを失い、冬の時代がやってきたのかもしれません。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年1月21日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。「能登抜きの震災ストーリーには違和感」「渋滞税導入で、大混乱のニューヨーク市」もすぐ読めます
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