クリアに見えてこないアメリカが置いている最終的な着地点
【IAEAによる核関連施設の査察】についても、アメリカのバンス副大統領は「イランがIAEAによる核関連施設の査察を受け入れた」と主張していますが、イラン側(アラグチ外相を含む複数の外務省関係者)は「新たな約束は何もしていない」と真っ向から否定しています。
IAEAのグロッシ事務局長は「査察という以上、当然、立ち入る必要がある」と繰り返し強調していますが(「問題は“いつ”、“どの施設”を査察するのかについて何ら情報がない」とも述べています)、イラン側は「最終合意の後でなければ査察は認めない」との立場を崩していません。
昨年6月の12日間戦争以降、ナタンズ、イスファハン、フォルドウといった“攻撃を受け大量の核物質・設備を抱える施設”への立ち入りはいまだ実現しておらず、今後もその見込みが立っていません。
【対イラン制裁解除】についても、米国は「協議の進展がなければ解除はない」との立場である一方、イランは「カタール政府の管理下にある一部凍結資産(約60億ドル)が解除され、大規模な復興が始まる」と主張しており、ここでも両者間の主張の溝は埋まっていません。
6月末には、カタールの首都ドーハで技術者級協議が開かれるのではないかとの憶測が広がりましたが、トランプ大統領自身が「ドーハでの会合は重要かもしれないし、そうでないかもしれない」と煙に巻くような発言をする一方、イラン側の有力交渉担当者ガリババディ氏も「そうした報道は確認されておらず、アメリカ側と直接協議する予定はない」と繰り返し否定するなど、両国の足並みは最後まで揃いませんでした。
イラン外務省・カタール外務省ともに、米イランの直接協議という形式そのものを一貫して否定しており、あくまで“カタール政府とイラン政府”・“カタール政府とアメリカ政府”という間接的な形式に終始しているのが実情です。
米上院では6月末、イラン関連の決議が僅差(50対47)で可決されるなど、米国内政治もイラン情勢に敏感に反応しています。
トランプ大統領は「間もなくガソリン価格は1ガロン2.5ドルまで下がる」と国内向けに成果を強調して、秋の議会中間選挙に向けた支持回復に苦心していますが、その裏でイランに対する軍事的な圧力は緩めておらず、「もしイランが合意を破れば、選択肢は複数ある」と警告も忘れていません。
濃縮ウランの問題、IAEAによる査察と核の平和利用、制裁解除に関する話し合いは、専門家による作業部会で行われるとされていますが、その開催予定はいまだ立っていません。
米イラン両国内の政治状況は不安定さを増しており、早期に協議がまとまれば両国の体制強化につながると考えられますが、長期化すれば、それは双方にとって重いボディーブローになります。覚書発効から60日間という猶予期間は刻一刻と過ぎており、その期限が近づくほど、双方の政治的な体力の限界も同時に近づいてきます。
正直なところ、アメリカがどこに最終的な着地点を置いているのか、私にはクリアなビジョンがあるようには見えません。
「イランの核開発を許さない」という大義で軍事攻撃に踏み切った以上、これが実質的な失敗に終われば、中東地域の核抑止バランスが崩れ、核拡散という究極のパンドラの箱が開きかねないとの懸念があります。
その裏側では、「アメリカはイランだけでなく、サウジアラビア王国にもウラン濃縮を認める可能性がある」との観測も出てきており、これが現実になれば、中東の核秩序そのものが根底から書き換わることになります。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ






