確実に露呈しつつあるアジア全域における安全保障の空白
そして、米国防総省の幹部が明かした「この米イラン百日戦争(2月28日から始まった戦争を私はこう呼んでいます)の「真の勝者」は、当事国のどちらでもなく中国だ」という指摘には説得力があります。
アメリカ政府はインド太平洋地域の軍事力・軍事能力の一部を中東へ振り向けましたが、仮にイランとの戦闘停止が今後も継続したとしても、インド太平洋における軍事的プレゼンスを元の状態に戻すのは容易ではありません。
また米戦略国際問題研究所(CSIS)などの分析によると、アメリカがイラン攻撃で消費したミサイルの在庫回復にも、早くても3~4年は必要とのことです。
アジア全域における安全保障の空白が、静かに、しかし確実に露呈しているのです。
逆に、この百日戦争の「敗者」は、米軍という抑止力に依存してきた民主主義陣営と、安価な石油というエネルギーに頼ってきた自由経済体制です。
日米欧という西側陣営は、軍事・経済の両面で、これまで当たり前だと思っていた安定基盤を静かに損ないつつあります。100日間で10億バレルを超す石油供給が途絶え、国際通貨基金(IMF)の分析によると、2026年の世界のインフレ率は当初予想の3.8%から4.4%へと切り上がりました。
もっとも、直近ではホルムズ海峡の緊張緩和を受けてブレント原油は1バレル80ドル前後まで軟化しており、米国内のガソリン価格にも一定の落ち着きが見え始めていますが、これはあくまで「一時的な小康」であり、次の一発の攻撃報道で再び急騰しかねない、極めて脆い均衡だという点は強調しておきたいと思います。
国家紛争と物価上昇はポピュリズムを勢いづかせ、民主主義と自由経済にとっては逆風となります。英国ではスターマー首相が退陣させられる事態に発展しました。米国によるイランへの攻撃は、トランプ政権の信認にも大きなダメージを与えています。傷を負ったのは世界全体です。石油需要国はホルムズ海峡というチョークポイントを抱え、安全保障政策の根本的な見直しが急務となっています。
米軍の伸び切った兵站は、アメリカが仕掛ける多面作戦の限界を示しています。アジア有事で「日本売り」が鮮明化したら、日本は国防どころか生活必需物資すら調達難に陥るという、国家安全保障上の大きな問題が表出する恐れがあります。
ここに止まらない円安と、1,000兆円を超すと言われる過大な債務が重なれば、それは日本経済に止めを刺す一撃になりかねません。日本としては、決して「対岸の火事」として見過ごしてはならない局面です。
2つ目は【地上の消耗戦から“宇宙の消耗戦”に姿を替えたロシア・ウクライナ戦争】についてです。
ウクライナの無人ドローンによる容赦のないロシア全土へのインフラ攻撃が続いています。結果として、ロシア国内の製油所の損傷が相次いでいます。
同時にウクライナ軍は、クリミア半島への攻撃を強め、ロシア側の補給路・供給路を断つ戦略を鮮明にしています。
ロシア系住民が多数を占めるクリミア半島では、対ロシア政府批判が高まりつつあります。これは、2014年の奪還・併合時にロシア国内でブーストされた「ロシアの同胞の救出」というクリミア半島併合の正当化のために用いたプロパガンダ戦略への大きなショックとなりかねず、プーチン大統領と政権の正当性そのものに疑問符が呈される事態になりかねません。
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