求められる「複数のシナリオに備えておく戦略的な忍耐」
日本にとっての教訓は明確です。ホルムズ海峡というチョークポイントへの依存、米軍の抑止力頼みの安全保障、そして中国の域外的な法的圧力――これらはどれも、これまで「所与のもの」として深く考えずに済んできた前提です。
しかし、その前提が一つひとつ崩れつつある今、私たちに求められているのは、性急な結論を出すことではなく、変化の兆候を丁寧に読み取り、複数のシナリオに備えておく「戦略的な忍耐」ではないでしょうか。
もう一つ付け加えるならば、今週の4つの事象は、いずれも「情報とインフラの支配権」をめぐる争いだという点でも共通しています。
米イラン間ではIAEAという第三者機関の査察権限そのものが交渉のカードになり、ロシア・ウクライナ間では宇宙通信という「見る力・聞く力」そのものが標的になり、英国では有権者の情報環境がSNSを通じたポピュリズムに揺さぶられ、中国では言論というインフラそのものを国家が域外まで管理しようとしています。
かつての紛争は「領土」や「資源」の奪い合いが中心でしたが、今起きているのは、それに加えて「誰が情報を制し、誰がインフラを支配するか」という、より抽象的で、しかしより本質的な争いです。そしてこの種の争いは、勝敗の輪郭が見えにくいがゆえに、当事者たちが「勝った」「負けた」の判断を誤りやすいという厄介な性質を持っています。
ウクライナがロシアの宇宙インフラを執拗に叩き続けているのは、まさにこの「見えにくい優位性」を地道に積み上げる戦略であり、逆にロシアがそれに気づいた時にはすでに手遅れになっている、というシナリオも十分にあり得ます。
紛争調停の現場でよく感じることですが、こうした「情報戦」的な要素が強まるほど、当事者同士の直接対話だけでは事態は収拾しにくくなります。
第三者による事実確認、検証可能な情報の共有、そして双方が納得できる「共通の物差し」を用意することが、これまで以上に重要になってきます。
IAEAの査察の可否がここまで揉めているのも、突き詰めれば「何をもって事実とするか」について米イランの間で共通の物差しが存在しないからです。これは中東に限った話ではなく、ロシア・ウクライナ間の停戦協議、そして将来起こりうるどんな地域紛争においても、同じ構造が繰り返されるはずです。
そのような中、私たちはどう生きていくべきでしょうか?その答えを明らかにしなくてはならない時期がもうそこまで来ているように感じています。
今週も最後までお読みいただき、ありがとうございました。来週も、世界の水面下で動いている力学を、皆様と一緒に読み解いていきたいと思います。
以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年7月3日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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