ウクライナが開始したロシア軍の「神経系」を切断する作戦
航空機の離着陸制限は、夜が明けた午前になってから順次解除されていますが、モスクワ郊外エゴリエフスクでは、ドローンが住宅に衝突し人々が瓦礫の下に閉じ込められ、生後6カ月の乳児が病院搬送中に死亡するという痛ましい犠牲も出ています。また、ロシア西部トベリ州でも、撃墜された「敵のドローン」が夏の別荘に衝突し、61歳の女性が死亡しました。
これは単なる通信施設への破壊工作ではありません。ロシア軍の「神経系」を切断する作戦であり、戦場全体を徐々に麻痺させる長期戦略の始まりだと私は見ています。
衛星通信施設は、偵察衛星から送られてくる膨大な情報を地上へ降ろし、各部隊へ配信する中継点です。ここが損傷すれば、司令部は戦場を見渡す「目」を失い、前線は命令を受け取る「耳」を失います。さらに、不正な手段で入手していた米国のStarlinkへのアクセスを失った(著しく制限されている)ロシア軍は、いまだに代替の通信インフラを構築できていません。
興味深いのは、ウクライナ軍が偶発的にこの施設を狙っているのではなく、同じ施設を繰り返し攻撃している点です。一度壊して終わりではなく、修復能力そのものを疲弊させ、運用能力を恒久的に低下させることを狙う、典型的な「システム破壊戦」です。
しかし、本当に恐ろしい影響は、まだ先に訪れます。
ロシア軍の精密誘導兵器の多くは、GLONASS(ロシア版GPS)による測位情報に依存しています。GLONASSは衛星だけで成り立っているわけではなく、軌道上の衛星を監視し、時刻を補正し、軌道を更新し、誤差を管理する地上管制施設があって初めて、高い精度を維持できる仕組みです。
つまり、宇宙通信センターや関連施設への継続的な打撃は、単に通信能力を低下させるだけではなく、長期的にはGLONASS衛星群の運用管理能力そのものを蝕んでいく可能性があるのです。
衛星の軌道や時計の補正が遅れれば、測位誤差は少しずつ積み重なります。平時なら数メートルで済む誤差が、十数メートル、数十メートルへと拡大すれば、精密誘導兵器はもはや「精密」とは呼べません。軍事目標を狙った巡航ミサイルが建物一棟分外れ、防空レーダーではなく何もない空き地へ着弾する。橋脚ではなく河川へ落下する。滑空誘導爆弾の誘導精度も低下し、弾薬消費はさらに膨らむ――そうした事態が、半年後、一年後に静かに現実化していく可能性があります。
宇宙インフラへの攻撃は、今日の通信障害だけで終わる話ではなく、ロシア軍全体の打撃精度を静かに劣化させる「時限爆弾」なのです。ロシア軍事ブロガーが「国家レベルで目と耳を潰されている」と危機感をあらわにしたのは、決して誇張ではないでしょう。むしろ彼らは、事態の本質を理解している数少ない人々なのだと思います。
皮肉なのは、ロシアが冷戦時代から誇ってきた宇宙大国としての優位性が、いまや最大の弱点になりつつあることです。巨大で集中化された宇宙通信インフラは、長距離ドローンという安価な兵器によって、一つずつ無力化され始めました。唯一ウクライナがロシアに遅れを取っていた偵察衛星・通信衛星といった宇宙アセットの分野で、そのコントロールが着実に削られ始めています。
現代戦では、戦車を百両撃破するより、宇宙通信施設を一つ止めるほうが戦局に与える影響は大きい場合があります。戦争は地上で戦われているように見えますが、勝敗を左右するのは、地平線のはるか上空を回る衛星と、それを支える地上インフラです。ロシアが失いつつあるのは、一つの施設ではありません。【宇宙への支配力】そのものなのです。
宇宙からの目を失ったロシアは、ウクライナ軍が見えなくなり、やがて撃つことさえできなくなる状況に陥ることになります(そして脅しに使っているロシアの核兵器の運用にも大きな影響が生じる恐れが出ています)。
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