日本の企業や日本人が真剣に向き合うべき新しい現実
もちろん、日本国内にいる限り、この法律によって直ちに逮捕・処罰されるわけではありません。しかし、中国本土や犯罪人引渡条約を結ぶ第三国への渡航時の拘束リスク、現地法人への圧力、取引・協力の制限、資産凍結、関係者への嫌がらせといった実務的な圧力手段は現実に存在します。
例えば、2020年の香港国家安全維持法が、当初「これは香港の政治の話だ」と多くの外資系企業に軽視された結果、後になって企業活動・情報管理・人材配置・言論対応・サプライチェーン判断にまで影響を及ぼしたという教訓を踏まえれば、この新法についても「また一つの中国の国内法だ」と片付けるのは危険です。
さらに厄介なのは、米国の「ウイグル強制労働防止法」への対応との板挟みです。新疆ウイグル自治区からの輸入品が強制労働で生産されたものではないと証明できない限り、輸入は原則禁止されるという米国法に従うためには、日本企業はサプライチェーンを徹底的に調査する必要があります。
ところが、中国工場での強制労働の可能性を調査しようとする行為そのものが、今度は中国側から「民族分裂を扇動する行為」と認定されるリスクが生じるのです。
この構造は、すでに反外国制裁法によって先行して整備されていましたが、民族団結法はこの「板挟み」の対象範囲を人権問題全般に拡大するものだと理解すべきでしょう。
これは、「軍事侵攻だけが侵略ではない」ことを示す、法制度・経済・言論を通じた圧力の一つの完成形として、日本企業・日本人が真剣に向き合うべき新しい現実だと私は捉えています。
これら4つの大きな動きを踏まえ、全体を俯瞰してみて私が強調したいポイントは、【秩序の耐用年数切れにどう向き合うか】という大きな問いについてです。
今週の出来事を並べてみると、共通して浮かび上がるのは、【これまで前提としてきた秩序が、静かに、しかし確実に耐用年数を迎えつつあるという構図】です。
米イラン間の合意は、「合意した」という言葉だけが独り歩きし、中身の解釈は依然としてバラバラのままです。ロシア・ウクライナ戦争は、地上の消耗戦から「宇宙という新しい戦場」へと重心を移しつつあります。英国では、物価高とポピュリズムの波が、就任からわずか2年足らずの政権をも押し流しました。そして中国は、法治という体裁を整えながら、国境を越えて言論と経済活動を統制する仕組みを一段と強化しています。
いずれの局面でも共通しているのは、「言葉で合意したこと」と「実際に実行されること」の間に、大きな溝が存在するという事実です。
紛争調停の現場に長く身を置いてきた者として申し上げれば、覚書やMOUへの署名は交渉のゴールではなく、むしろ「本当の交渉が始まる合図」に過ぎません。
米イラン間の作業部会が一向に開催されないのも、ウクライナがロシアの宇宙インフラという「見えない急所」を執拗に狙い続けているのも、すべては「紙の合意」だけでは何も変わらないという現実を、当事者たちが誰よりもよく理解しているからです。
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