暴君トランプが国際社会に送ってしまった「ホルムズ海峡課金」という誤ったメッセージで中国とロシアが得る“漁夫の利”

 

自由貿易体制を支えてきた暗黙の原則に傷をつけたトランプ

2.20%構想の撤回と「通航料」という原則の崩壊

トランプ大統領がぶち上げた構想に対して、海運業界からはもちろん即座に猛反発が起きました。

「貨物価額の20%相当というのは法外な水準であり、到底許容できない」との声が相次ぎ、国際海事機関(IMO)事務局長も「水路への通航料導入は国際法に反する」との立場を改めて示し、専門家からも、米国が海峡を物理的に管理しているわけでも、法的な徴収権限を持つわけでもない中で、この構想は「実効性を欠く政治的メッセージに過ぎない」との指摘が上がりました。

湾岸諸国を含む国際社会から激しい反発を受けて、トランプ大統領は7月14日、方針を転換する羽目になりました。「海峡はイラン以外のすべての船舶に開かれている」と述べ、20%の通航料構想を事実上撤回し、代わりに湾岸産油国との貿易・投資協定を通じてオイルマネーを米国に還流させる方向へと舵を切りました。

一方のイランは、「ペルシャ湾海峡庁」なるものを設置し、独自に1バレルあたり1ドルのサービス料を徴収する構想を主張しています。イランのアラグチ外相は「トランプ大統領の指摘は完全に正しい。商船に安全な航行を提供する者は、その対価を受け取るべきだ。イランは常に海峡の守護者であり、これからもそうであり続ける」と、皮肉にもトランプ発言を逆手に取って自らの主張を正当化しました。

ここに、この問題の本質があります。

米国が自ら「通航料を取る」と言い出した瞬間に、「イランは通航料を取るべきではない」という米国側の従来の主張の正当性そのものが崩れてしまったのです。トランプ大統領がこの点に気づいて、慌てて方針転換したかどうかは定かではありませんが。

3.「国際海峡は課金しない」という原則の綻び

この一件が世界に与えた本当のダメージは、原油価格の変動に留まりません。「国際海峡は課金しない」という、戦後の自由貿易体制を支えてきた暗黙の原則に、明確な傷がつき、国際海運の“常識”が崩壊し始める事態に陥ったことです。

これに関しては、イランによるホルムズ海峡の閉鎖が経済的な武器になり得ることを目の当たりにした他の海峡沿岸国が“要らぬ考え”を持ちかねない状況を生み出しており、すでに4月の段階で懸念すべき兆候も見受けられました。

インドネシア政府プルバヤ・ユディ・サデワ財務大臣からは「マラッカ海峡の沿岸国が通航料を分け合えば、相当な収入になるだろう」との発言が飛び出しました(2026年4月22日ジャカルタで行われたシンポジウムでの発言)。すぐにこの発言はインドネシアのスギノオ外務大臣によって打ち消されていますが、国際社会が直面する本心が透けて見えるような気がします。

米エネルギー情報局(EIA)が出している「World Oil Transit Chokepoints」分析(2025年)によると、世界の海上石油貿易の26%がホルムズ海峡を、29%がマラッカ海峡を通過することが示されています。目を世界の他地域に向けると、欧州圏にもトルコ海峡やデンマーク海峡といった戦略的チョークポイントが存在します。

もし沿岸国が競うように通航料構想を具体化させれば、石油・海運の不透明性リスクが世界的に高まり、自由主義経済国のサプライチェーンの力が弱まります。そしてその空白を利するのは、間違いなく中国とロシアです。

その点で、すぐに打ち消されたものの、トランプ大統領が、イランがホルムズ海峡の通航料を徴収することを非難しながら、自ら20%の通航料に言及したことは、世界中の“海峡周辺国”にあまり望ましくないメッセージを送ったのではないかと懸念されます。

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