【欧州は「戦争経済」ではなく「戦略的自律」の時代へ─ウクライナ戦争が加速させた欧州安全保障の再設計─】
ロシア・ウクライナ戦争が長期化するなか、欧州では安全保障政策そのものの再設計が進んでいます。その背景にあるのは、「ウクライナを支援する」という短期的な目的だけではありません。むしろ欧州各国は、「アメリカに依存し過ぎた安全保障体制から、どこまで自立できるのか」という長期的課題への対応を迫られています。
防空システムの共同開発、防衛産業基盤の強化、共同調達の拡大は、その象徴的な動きです。欧州はいま、「戦争への備え」を進めているのではありません。「戦後秩序の次」を準備し始めているのです。
1.欧州防空システム新連合の発足
7月13日、ウクライナ、英国、ドイツ、フランスなど欧州10か国が、新たな防空システムの共同開発を目指す連合を発足させました。デンマーク、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデンも参加予定であり、米国製「パトリオット」システムの欧州版を想定し、将来的なロシアのミサイル脅威から欧州を守るための統合ミサイル防衛網の構築を目指しています。
ウクライナは、自国の防衛大手ファイアポイント社が開発した迎撃ミサイル「FP-7.x」の試射に着手しており、2027年の実戦配備を目標に掲げています。
新連合は、このFP-7xを軸とした防空システム開発を支援する方針で、ウクライナは実戦で得た迎撃ミサイルの知見を加盟国と共有する一方、独仏が強みを持つレーダー技術などを取り入れる意向とされています。
ウクライナはすでに仏伊共同開発の中距離防空システムSAMP-Tの提供を受けているほか、米国とはパトリオットのライセンス生産で合意しており、防空能力の総合的な強化を加速させています。
2.「戦略的自律」は現実となるのか
欧州連合(EU)は長年、「戦略的自律」という理念を掲げてきました。しかし、その実現には多くの課題が残されています。
加盟国ごとに安全保障上の脅威認識は異なり、東欧諸国はロシアへの抑止を最優先する一方、南欧諸国は地中海や北アフリカ情勢への対応を重視し、西欧諸国は経済競争力や財政との均衡も考慮せざるを得ません。そのため、「欧州として一つの軍事戦略を持つ」ことは容易ではありません。
それでも、防衛産業の連携強化や共同開発は着実に進みつつあり、欧州独自の安全保障能力を高めようとする流れは今後も続くと考えられます。
3.防衛産業は欧州経済の新たな成長分野となるか
近年、欧州各国では防衛関連投資が急速に拡大しています。これは単なる軍拡ではありません。半導体、AI、宇宙、通信、無人システムなど、多くの先端技術が防衛分野と民間分野の双方で活用される「デュアルユース」の時代に入っています。
その結果、防衛産業は安全保障だけでなく、産業政策や技術競争力の観点からも重要性を増しています。一方で、財政負担や社会保障とのバランスをどう取るかという課題も大きいといえます。人口高齢化が進む欧州にとって、防衛費の持続可能性は今後の重要な政策論点となるでしょう。
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