暴君トランプが国際社会に送ってしまった「ホルムズ海峡課金」という誤ったメッセージで中国とロシアが得る“漁夫の利”

 

【停戦が終わっても平和は訪れない─米・イラン対立が示す「新しい戦争」の構造─】

2026年7月、中東で再び軍事的緊張が高まりました。しかし、現在起きている事象を「停戦の失敗」とだけ理解するのは適切ではありません。むしろ注目すべきは、停戦という制度そのものが機能しにくくなっていることです。

かつて国家間戦争では、停戦合意は政治交渉への入口となりました。しかし現在では、停戦は恒久的な和平へ向かう第一歩ではなく、「次の軍事行動までの時間を確保する手段」として利用される傾向が強まっています。

1.6月17日の覚書はすでに崩壊している

6月17日に署名された14項目の覚書は、この一週間でその主要な柱をほぼすべて失いました。

まず、軍事作戦の終結という第一の柱が守られていません。トランプ大統領は7月10日、米連邦議会に対し「7月7日に軍事作戦が再開された」と通知しました。これにより、米国内法上も米・イラン間の停戦状態は正式に終了し、戦闘状態へと戻ったことになります。

米議会は先月、イランへの敵対行為の終結を求める決議を可決していましたが、この措置はほぼ象徴的なものにとどまり、トランプ大統領に部隊撤収を強制する効力は持ちませんでした。

第二に、海上封鎖の解除という柱も破綻しました。イランは7月12日にホルムズ海峡の再封鎖を宣言し、米国も13日、イランの港湾への船舶の出入りを阻止する措置を14日16時(米東部時間)に再開すると発表しました。

第三に、イラン産原油・石油製品に対する制裁除外という柱も、7月7日の禁輸再発表によって崩れています。

さらに象徴的なのが、イランが地下深くに核関連施設を保有しているとされる「ピックアックス山」(イラン側のペルシャ語での呼称ではコラン山)の扱いです。トランプ大統領はこの施設を攻撃対象にすると発言しましたが、専門家によると、ナタンズの核施設同様、米国の地中貫通爆弾(バンカーバスター)をもってしても破壊は困難との見方が強いようです。

米シンクタンクISIS(科学国際安全保障研究所)が主張するように、仮にイランがこの場所で核開発を継続しているのであれば、それ自体が「核開発の現状維持」を定めた覚書の違反となる一方、米国がこの施設を攻撃すれば、それもまた覚書違反となります。

双方が互いを「違反者」と呼び合う構造そのものが、今回の覚書の脆弱性を物語っています。

2.終着点(End State)なき停戦の宿命

停戦が成立したにもかかわらず軍事行動が再開される背景には、一つの共通点があります。「最終的にどのような状態を目指すのか」という終着点(End State)が共有されていないことです。

仮に攻撃停止で合意しても、相手の体制を変えたい国と、現体制の維持を最優先する国とでは、停戦の意味そのものが異なります。そのため、停戦は紛争解決ではなく、「戦略の一部」として扱われやすくなります。

この構造は、中東だけではなく、ロシア・ウクライナ、ガザ、さらにはインド・パキスタンなど、多くの紛争にも共通して見られます。

今回の戦争も、当初は「レジームチェンジ(体制転換)」を目的として始まったはずでした。しかし、イラン国内で期待されたような民衆蜂起が起きなかったことで、この目的そのものへの関心は急速に薄れました。

戦況が膠着状態に陥ると、トランプ大統領からは橋や発電所などイラン市民の生活を支えるインフラへの攻撃も辞さない姿勢が示されるようになっています。何という矛盾でしょうか?

これは、明確な政治的目的を欠いたまま続く戦争が、いかに「終わらせ方」を見失いやすいかを示す典型例だといえるでしょう。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

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