Apple Watchから漂う大化けの予感は、あの時と似ている。

 

重要なポイントは、iPodは最初から「単体で動く」ことを前提にしていなかったということです。Macに接続してアプリのiTunesを起動しないと、楽曲を収めることさえできなかったのです。しばらく後にWindows用のiTunesアプリもリリースされましたが、いずれにしてもパソコンが必要なのは変わりありませんでした。

こういうマーケティング戦略を、タイング(tying=束縛)というそうです。このタイングによって、iPodは成功したと言われています。つまり、非常に普及している製品に新製品を「縛り付ける」ことによって、新しい製品の普及の起爆剤とするということなわけですね。

そして今、iPhoneはかつてのMacよりも大きなビジネスとなり、四半期ごとに510億ドルもの収益をアップルにもたらしています。iPhoneはiPodとは異なり、Macと必ずしも接続する必要はなくなり、Macから独立し、単体でのビジネスになってきています。だからいまのアップルにとって、iPhoneは2001年当時のMacと同じような扱いのデバイスになっているといえるでしょう。

そしてApple WatchはiPhoneと連携して動作する、つまりiPhoneと「タイング」しているわけで、これは要するに2001年のiPodとMacの関係と同じじゃないか、ということを記事は指摘しているわけです。なるほど。タイングのロジックで言えば、iPhoneのセールスが非常に大きいことが、Apple Watchの売上げを押し上げることに十分なり得るだろうといえるのです。

iPodの登場によって、アップルはパソコンメーカーから脱皮し、音楽流通も行い、携帯電話もつくる総合的な企業に成長しました。それと同じように、アップルウォッチの登場によってアップルは高価な身につけるアクセサリー製品も作ることのできるメーカーへとさらに成長しようとしています。100万円以上もするEditionというApple Watchの高価版を出そうとしているのは、そういう脱皮ぶりを宣言するという一側面もあるということなのでしょ
う。

iPodが出てきたとき、多くの人は「これまでにもたくさんあったMP3プレーヤーの焼き直しじゃないか」「なにも新しくない」とこき下ろしました。しかしiPodはその後、音楽配信サービスを構築し、そして最終的にはiPhoneという驚くべき後継製品を生み出しています。

だとすれば、いまのApple Watchが「興味がない」「値段が高い」「新しくない」と酷評されているとしても、いったいその先に何がやってくるのかをもう少しみてからでなければ、判断はできないということになるでしょう。

iPodがiPhoneを生みだしたように、Apple Watchはまだ見ぬ製品「X」をこれから生みだしていくのかもしれません。それがいったいどんなものになるのかは、まだ誰も予測できていないのですが。

 

『佐々木俊尚の未来地図レポート』第337号より一部抜粋

【第337号の目次】
・特集1
アップルウォッチは、その未来可能性を誰も予測できていなかった「2001年のiPod」である
~ウォッチはメディア消費デバイスにもなりうるのか?
・特集2
弱者に光を当て、社会の外部から総中流社会を逆照射する
~戦後のメディアの歴史を読み解く(1)
・英語キュレーション
・今週のキュレーション

 

『佐々木俊尚の未来地図レポート』

著者/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
1961年生まれ。早稲田大政経学部中退。1988年毎日新聞社入社、1999年アスキーに移籍。2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。博覧強記さかつ群を抜く情報取集能力がいかんなく発揮されたメルマガはメインの特集はもちろん、読むべき記事を紹介するキュレーションも超ユースフル。
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