政権に萎縮するNHKと、「停波」恫喝に盾つけないTV界の惨状

 

ところで、高市の発言は、NHKというより、むしろ民放を意識したものである。12月3日の当メルマガでも取り上げたおどろおどろしい意見広告が発端だった。「放送法遵守を求める視聴者の会」を名乗る右派知識人がTBS「NEWS23」の岸井成格を個人攻撃するド派手な意見広告を産経(11月14日)と読売(11月15日)に掲載した。

政治に関心がないのかと思っていた日本の学生たちが全国各地で「戦争法案反対」のデモに立ち上がった歴史的なニュースを最も熱心に伝えた民放キー局の番組は「NEWS23」だった。その番組中に岸井キャスターが「メディアとしても(安保法案の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」と発言したことを、意見広告の主たちは問題視した。「政治的に公平であること」を定めた放送法第4条に違反しているというのが、
彼らの主張である。

この団体の行動はそれだけでは終わらなかった。11月27日、高市総務大臣に次のような公開質問状を出したのだ。

放送法第4条の政治的公平性については、平成19年の総務大臣答弁で「1つの番組ではなく放送事業者の番組全体を見て判断する」との見解が示されている。これに従うなら、2015年9月16日の「NEWS23」という単独の番組が不公平でも、直ちに「放送法に違反している」とは言えない。しかし、この総務大臣見解そのものが不適切ではないか。視聴者は、ある局の報道番組全体を見ることはできない。1つの番組内で公平性に配慮しようと努めるのは、放送事業者の責務だ。

これに対して高市総務大臣は次のような回答を返した。

1つの番組のみでも…国論を二分する政治課題について一方の政治的見解を取り上げず、他の見解のみを支持する内容を相当の時間にわたり繰り返す番組を放送するように…不偏不党から逸脱していると認められる極端な場合、「政治的に公平」を確保しているとは認められない。

高市は意見広告を出した団体の考えに同調し、1つの番組だけでも、放送法違反と判断できる場合がある旨の回答をしたと考えられる。これは明らかに「放送事業者の番組全体を見て」という従来の総務大臣見解を覆した文面だ。

2月8日の衆院予算委員会でこの問題が取り上げられた。元総務省官僚で放送法に詳しい民主党の奥野総一郎はまず「従来の総務大臣答弁を変更するのか」と追及した。高市は、公開質問状への回答文と同じ内容を述べたうえで、従来の総務大臣答弁と変わることはなく補充的に「1つの番組のみでもありうる」という見解を付け加えただけだ、と釈明した。

そこで、奥野は核心に切り込んだ。

「大臣には電波法76条にもとづき放送を止める権限(停波)がある。個別の番組の内容について、それは起こりうるか」

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