政権に萎縮するNHKと、「停波」恫喝に盾つけないTV界の惨状

 

以上のような仕掛けで、衆参ダブルの可能性もささやかれる国政選挙に向けて、テレビメディアに圧力をかけてくる安倍政権の姿勢に、まともなジャーナリストが反発しないわけがない。抗議の声明を出したのは田原総一朗、鳥越俊太郎、岸井成格、大谷昭宏、金平茂紀、青木理、田勢康弘。いずれもテレビで活躍するベテラン言論人だ。

欠席の田勢を除く6人は記者会見に顔をそろえ、「私たちは怒っています」と書かれた横断幕を掲げた。安倍官邸や自民党の反応が怖いのか、社の上層部の気持ちを忖度してか、政権批判さえ思うに任せないマスメディアの現状に、それぞれが強い不満をぶちまけた。

「日本の報道についての懸念はむしろ海外のメディアで強くなっている。日本のメディアは自粛が過ぎると海外メディアは思っている」(岸井)

「高市総務大臣の発言は恥ずかしい。こういう発言をしたら、ただちに全テレビ局の全番組が抗議をすべきだ」(田原)

政治権力は、国民に真実を知らさず、権力を維持するのに都合がいいように、世論を誘導するものである。メディアが政権の意向を恐れ、十分に批判することを回避したなら、国民は情報欠乏のまま言いなりになっていなければならない。メディアはたえず政権に厳しい目を向け、問題点があれば、確たる情報に基づいて批判するべきだ。それこそが放送法第4条の「政治的公平」ではないか。国境なき記者団が選定する「報道の自由度ランキング」(2015年)で韓国に次ぐ61位に甘んじているこの国の言論状況はそうとうに深刻である。

この席上で鳥越は、高市総務大臣の経歴詐称を問題にした。彼女がかつてテレビ番組に評論家ぶって登場できたのは、今も用いている元米国議会立法調査員という肩書のゆえである。

実は米国議会に立法調査員などという職種はない。高市が総務大臣に就任した2014年9月3日、同志社大大学院の教授だった浅野健一(メディア学)がNHKに次のような文書をFAX送信して、高市の経歴についての訂正を求めている。

NHK総合テレビのニュースで、総務相になった高市早苗さんのプロフィールを映像付きで紹介する中で、「松下政経塾を出て、アメリカ連邦議会で勤務した後、…」と放送しました。高市さんが米連邦議会で勤務したという放送内容は、明らかに誤っていると私は思います。高市氏は米議会でリベラルな一議員のアルバイトスタッフでした。国政政治家、とりわけ閣僚の経歴は正確でなければなりません。放送法に則り、ただちに訂正ください。

NHKが放送法に則って総務大臣の経歴を訂正することはなかった。おそらく、高市の事務所に問い合わせることもしていないだろう。

口利き屋、ゴマすり屋、売名屋、パワハラ屋…にぎにぎしい動物農場に、ハッタリ屋の大臣も加わって、真面目に生きるふつうの国民はますます馬鹿を見るばかりだ。

彼らを野放しにする自縄自縛の大メディア、何とかならないものか。

image by: MAG2 NEWS編集部

 

国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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