日本企業の端楽(はたらき)ぶり
近代経済学の始祖はアダム・スミスであるが、彼以前の経済学は道徳哲学の一分野であった。道徳という心の中の問題から、投資や利益、効率などという金にまつわる問題に移っていった所から近代経済学は始まった。その発展に従って、道徳の問題はますます隅に追いやられ、ついには数式を多用した理論経済学となっていった。
そこに出てくるのは利潤の最大化を狙う資本家や、「もっと賃金をよこせ」という労働者、少しでも安く良いものを買おうとする消費者しか出てこない。従業員の生活を守ろうと必死で働く日本の中小企業のオーナーや、それに応えてサービス残業も厭わない従業員、値段は高くとも社会貢献している企業からの製品を買う消費者などは出てこないのである。
こういう経済学などは他人事のように無視して、多くの日本企業は黙々とジャパン・スタンダードの「正直、信頼、助け合い」の仕事を続けている。その道徳力こそ、経済大国・日本の原動力なのである。
そして地球全体が一つの共同体になりつつある現在、日本企業は中国企業やアラブ商人たちにまで、その黙々たる仕事ぶりを通して、「正直、信頼、助け合い」こそ繁栄の道である事を教えている。これほど目立たず静かな、しかし根源的な国際貢献もない。二宮尊徳など、ジャパン・スタンダードを築いた先人たちも、これら日本企業の端楽(はたらき)ぶりに目を細めているであろう。
文責:伊勢雅臣
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