働くは「端(はた)楽(らく)」。この日本語に込められた深い意味

 

ジャパン・スタンダードとグローバル・スタンダード

正直や信用をベースとした日本企業の商習慣、これを以下、ジャパン・スタンダードと呼ぼう。ひと頃はジャパン・スタンダードを「系列」や「談合」というマイナスのイメージで捉え、それに対置して「市場原理と公正な競争」からなる「グローバル・スタンダード」を説く人々がいた。

グローバル・スタンダードとジャパン・スタンダードの違いを明確に示すたとえ話がある。田舎者が市場に来て、あなたの店で帽子を1,000円で買った、としよう。そのお客がしばらくした後、戻ってきて、「市場の奥の方の別の店では同じ帽子を800円で売っていた。この帽子を返すから、金を返してくれ」と言ったら、あなたはどうするか。

グローバル・スタンダードでは、あなたの店には何の落ち度もない。ちゃんと価格も品質もすべて情報公開しており、相手も納得して買ったのだから、売買契約は完全に成立している。よく調べずに買ったのは客の自己責任である。いまさら返品に応ずる必要はない。このように情報公開自己責任契約からなる「市場原理」こそグローバル・スタンダードの本質である。

ジャパン・スタンダードならどうか。「よく調べずに買った方が悪い」とは言え、そういうミスはお互い様だ。あなたの方も知らなかったとはいえ、別の店で800円で売っているものを1,000円で売っていたのでは、さも客を騙していたようで申し訳ない気がする。返金に応ずるか、あるいは今からでも800円に負けて、差額の200円分をお返ししましょう、とでも言うだろう。この「正直信頼助け合い」の共同体原理がジャパン・スタンダードの根底にある。

グローバル・スタンダードはユダヤ・スタンダード

この話は、ユダヤ人たちが生きるための知恵を集めた大事典「タルムード」の中に出てくる。ここには商売や取引の実例がたくさん納められており、世界に冠たるユダヤ商人は、このタルムードによって育成されているのである。

このケースでのタルムードの模範回答は「返金する必要なし」である。双方が納得して取引が成立したのだから、「よく調べずに買った方が悪い」という、グローバル・スタンダードが回答になっている。

ただし、これは客がキリスト教徒の場合であって、「相手がユダヤ人なら返金してあげなさい」とある。キリスト教徒に対しては契約万能の「市場原理」をとり、同じユダヤ人どうしなら「正直、信頼、助け合い」の「共同体原理」を教えている。一種のダブル・スタンダード(二重基準)である。

ユダヤ人はヨーロッパのキリスト教社会の共同体に入れて貰えなかった。だからヨーロッパ大陸のそこここで孤島のようにユダヤ人だけの共同体を作り、その中では「正直、信頼、助け合い」で暮らしていた。しかし、生きていくためには周囲のキリスト教徒たちとの交易が必要である。ユダヤ人とキリスト教徒の異なる共同体の間ではお金によって交換可能な市場しか成立しない。そこに「市場原理」が生まれた。

これが人種・民族・宗教など、様々に異質な共同体がモザイク模様を織りなすアメリカ大陸で発展して「グローバル・スタンダード」と呼ばれるようになったのである。だから「グローバル・スタンダード」を「ユダヤ・スタンダード」と呼ぶ人がいる。

print
いま読まれてます

  • 働くは「端(はた)楽(らく)」。この日本語に込められた深い意味
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け