働くは「端(はた)楽(らく)」。この日本語に込められた深い意味

 

「共同体原理」と「市場原理」

グローバル・スタンダードとジャパン・スタンダードと、商売をする上でどちらが得なのか、比較してみよう。

市場に流れ者やよそ者の出入りが多く、客も見知らぬ人ばかりだったら、グローバル・スタンダードの方が有利である。200円まけてやる必要もないし、「別の店で800円で売っていた」という言い分自体が、見知らぬ客のウソかもしれない。

これがお互いに顔見知りばかりの共同体だったら話は逆で、ジャパン・スタンダードの方が得である。200円返してやったら、相手は今後もあなたの客を贔屓にしてくれるだろう。さらに喜んだ客が、あなたは正直者だと触れ回ってくれて、売上げが増えるかもしれない。

だから、ユダヤ人も自分の共同体の中では金を返してやれと共同体原理を採用している。アメリカでも戦前はアングロサクソン系の共同体的商習慣が残っていたので、たとえばマクドナルドなどは仕入れ先とは「口約束」で済ませていた。紙コップ1つ1セントで、100万個買います、という具合である。「Gentleman’s Agreement」と言う言葉があり、紳士は口に出した事はかならず守る、という共同体原理である。

このように長く安定的な共同体が続くと、そこでは「正直、信頼、助け合い」の商売の方が繁盛するので、「良店が悪店を駆逐して」商習慣全体も共同体原理が支配するようになる。

だから、ジャパン・スタンダードと言っても、それは日本人の民族的特性に基づく特殊なものというより世界のどの共同体にもある程度は見られる普遍的なものなのである。ただ日本人は数千年もこの日本列島で一緒に暮らしてきて、世界でも最も歴史の長い、安定した共同体を作ってきたのだから、そこでの「正直、信頼、助け合い」は世界でも最高レベルに発達したのである。

冒頭で紹介した二つの事例で見られるように、日本企業は正直信頼助け合いのジャパン・スタンダードを海外にも拡げて成功しつつある。これは通信技術や交通手段が発達して、世界全体が一つの狭い共同体になりつつあるからである。だから、今後は、ジャパン・スタンダードが地球共同体全体の新しいグローバル・スタンダードになっていくだろう。

効率的・創造的な「共同体原理」

社会全体から見ても、ジャパン・スタンダードの方が効率の良い面が多い。たとえば、いつ相手に裏切られるかもしれない市場原理では、お互いを契約でがんじがらめにしなければ安心できない。それでもうまく騙されたら、裁判に訴える。契約や裁判で、膨大なコストと時間が失われていく。優秀な人材が裁判官や弁護士となって、ゼロサム・ゲーム(勝者と敗者の損得を足すと常にゼロにしかならないゲーム)に費やされる。

ジャパン・スタンダードなら、なにか問題があったら取引先と一緒に知恵を出し合って解決する。それが新しいアイデアや技術革新を生む。契約や裁判にムダな時間を使うより、はるかに効率的・創造的である。

共同体原理の非効率があるとすれば、助け合いによって生産性の低い企業が淘汰されずに残ることであるが、そういう「社会主義的共同体」でなく、三井・三菱・住友といったグループ業が共同体の中で激しく競争する、という「資本主義的共同体」であれば、この問題は避けられる。

明治以降の日本が「極東の小国」から半世紀足らずで世界5大国の仲間入りし、また戦後の荒廃から世界第二位の経済大国にのし上がったのも、「資本主義的共同体」の原理に因る所が大きい。

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