和牛からこぼれた肉汁が爆発する、感動「肉レストラン」の秘密

 

A5でなくA3~和牛が「絶品」に化ける秘密

その実力は、全国から肉の強豪店が集まる肉料理の祭典「肉フェス」で、3年連続の総合優勝を果たすほど。その圧倒的なおいしさを生む秘密は肉の仕入れにあるという。

仙台市中央卸売市場で千葉の仕入れの現場を見せてもらった。巨大な空間にずらりと吊るされているのは、競りに掛かる前の肉。1頭を半分にした骨がついたままの枝肉と言われる状態だ。

表面に刻印しているのは肉の等級。最高峰はよく知られるA5。牛肉の等級は2つの記号で表される。ABCは肉の歩留まり、つまりその枝肉にどれぐらい肉がついているかを示し、数字の1〜5は、その肉の霜降り具合など肉質の良さを表している。A5は、枝肉から取れる肉の量が多く、霜降りがふんだんに入った肉質を示している。

競りの直前、みんながこぞってA5の肉をチェックするなか、なぜか千葉はおいしいはずのA5には見向きもせず、見ているのはランクの低いA3ばかり。「流通評価は低いけれど、絶対食べたらおいしいものを1頭見つけた」と言う。

競りが始まり、A5ランクの肉が1キロ3000円近くに上がっていく。一方、千葉はある枝肉を落としにかかった。A3の肉だ。1キロ1880円で落札。一部に傷もあったため、相場より2割も安かった。千葉は最高評価のA5ではなく、あえてA3を狙って買い付け絶品の肉に化けさせるのだという。

その現場を特別に見せてもらった。巨大な冷蔵庫に吊るされていたのは、千葉がこの1ヶ月ほどで競り落としたA3の肉。千葉がここで作っているのは熟成肉だ。

肉を寝かせることでタンパク質が分解され、アミノ酸などのうま味成分が増えていく。千葉はこの熟成に向いた肉を選び出し、買い付けているのだ。そしてこだわりは1頭丸ごとの熟成。「1頭単位でやることが重要です。皮膜で守られている状態で、全体を包み込んで、その中で内側から分解していく」(千葉)のだと言う。

ここで4週間寝かせたあと、部位ごとに切り分け、それぞれ熟成法を変える。例えば60日間寝かせた前足の「ミスジ」。表面を覆っているのは白カビ。これは腐っているのではなく、うま味を引き出すいい菌が付着した状態だ。一方、「外モモ」は真空パックにして、ウェットエイジングという和牛特有の香りを逃がさない熟成法がとられていた。A3の肉を徹底的に研究し、どの部位をどうやって熟成させれば、他にない味わいを引き出せるのか、千葉は長年肉と格闘し、新たな美味しさを開発し続けてきた。

「カットしては食べ、カットしては食べの繰り返し。どう向き合ったらよりお客さんに喜んでもらえる商品になるのかをどれだけ真剣に考えるかです」(千葉)

今までにないうまい肉の食べ方を作り出すためなら、千葉は手段を選ばない。

岩手・陸前高田市の広田湾。最近、千葉はここで養殖しているものを大量に買い付けている。三陸自慢のミネラルをたっぷり含んだカキだ。千葉はこのカキに惚れ込んでいた。

広田湾で見つけた絶品のカキを提供するため、2016年10月、千葉は六本木にわざわざ新店舗「カブコ」をオープンさせた。厨房には千葉自慢の熟成肉。その隣で調理していたのは広田湾で取れたカキ。それを熟成肉とあわせて、加熱した器へ。その名も「牡蠣肉×ぶくぶく」。熟成肉のうま味が濃厚なカキの風味と一体となる未体験の味だ。

千葉は熟成肉と魚介類のコラボで、すでに大ヒットを生み出している。熟成肉でシャリをくるみ、そこに甘いウニを乗せた。熟成肉で巻いたウニ軍艦。バーナーであぶると、肉汁がしたたってくる。銀座「寿司さいしょ」と共同開発したメニューだ。

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一関と東京を繋ぐ~ボロ家で闘う地元への思い

東京・銀座の一角にある「デリリウムカフェGINZA」。最近店舗を増やしている人気のビアレストランだ。客のお目当ては40種類を超える様々な味わいのベルギービール。そして店の看板メニューが熟成肉のステーキだ。柔らかさと、あふれんばかりの肉汁が客を虜にしている。以前はA5ランクの霜降り肉を出していたが熟成肉に変えたところ一気に客が増えたという。

熟成肉は千葉から仕入れたもの。月の仕入れ額は200万円以上にのぼり、今や集客の要になっている。経営するエバーブルーの菅原亮平社長は、「千葉さんと会って店が変わりました」と言う。

千葉は格之進以外の店にも熟成肉を販売することで、その美味しさを広く伝えようとしている。千葉の熟成肉は地元岩手の和牛。一関市など南部のエリアで育てられる「いわて南牛」だ。

一関市の外れにある本店「丑舎 格之進」。店には「一関と東京を食で繋ぐ」という言葉が掲げられている。千葉は「私たちの事業が、食を通じて生産者と消費者のハブになるということです」と言う。

そんな思いで東京と故郷の一関を往復する生活の千葉。今や年商7億円を稼ぎ出すが、住まいは驚くほど質素なものだった。雨戸はベニヤ板で窓ガラスも割れたまま。ここで家族5人暮らし。店の名前にもなっている長男の格之進くんが「できれば家を早く建ててほしいです。寒いとたまに飲み残しが凍っているので」と言うと、「建てたいとは思うけど、お金があるとついつい店に使っちゃう」と千葉。家族に我慢してもらってでも、稼ぎは全て東京で店を拡大することにつぎ込んでいるのだ。

いわて南牛という、私たちの地元の牛を伝えることがひとつの目的になっている」(千葉)千葉はなぜそこまで地元の和牛を広めることに執念を燃やすのか。

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