和牛からこぼれた肉汁が爆発する、感動「肉レストラン」の秘密

 

大人気!熟成肉レストラン誕生秘話

一関の貧しい家畜商の家に生まれた千葉。大学卒業後に上京し、フィルムメーカーに就職。家業を継いだ兄が、和牛の生産に乗り出す一方、千葉は都会暮らしを満喫していた。  

しかし27歳の時、実家の牧場の経営が厳しい状況に追い込まれる。千葉はそれを解決するため脱サラを決意。当時、話題のユニクロをヒントに、あるアイデアを思いつく。

「牛を飼っているということは、うちは肉の原料メーカーだと思ったんです。牧場の牛を使って焼肉店をやれば製造小売ができる、肉のユニクロだと思った」(千葉)

そして1999年、実家で育てた牛を売る小売業として、焼肉店「格之進」をオープン。しかし素人が始めた店に、客は全く来なかった。商売を諦めかける千葉はしかたなく、大量に余った肉を少しずつ自分で食べて生活することに。すると1ヶ月後、驚くべきことが起きた。なぜか肉の味が劇的に変わっていたのだ。

「何の差だろうと思ったときに、寝かせる時間によって柔らかさや甘さが変わるんだと気づきました」(千葉)

さっそく千葉は肉の熟成技術を研究。どうやって熟成させると美味しくなるのか突き詰め、格之進で熟成肉を売り出すことにした。すると、それまでになかったおいしさに、一気に繁盛店となった。実はその時、足りなくなった肉をまかなうために買い始めたのが、地元農家が育てていた「いわて南牛」だった。

千葉はそこで、全国の畜産農家で起きている現実を目の当たりにする。朝から晩までの厳しい労働。後継者不足で高齢化が進み赤字の農家も多かった。「赤字が大変で、このままだと牛がいなくなる。いくらかでも赤字幅を減らし、生産者のリスクを軽減したい」と言う千葉は、熟成技術を使って「いわて南牛」をもっと多くの人に食べてもらおうと決意した。

2007年、千葉は熟成肉を武器に東京に打って出る。目的は「いわて南牛」を知ってもらうための、いわばショーウインドー。東京の客は熟成肉に飛びつき、瞬く間に人気店となっていった。順調に店舗を増やした格之進は、今や「いわて南牛の年間出荷数の15%を消費している。農家も安定的な出荷先が増えることに大きな期待を寄せている。

さらに千葉は地元の自治体とも連携し、「いわて南牛」を目玉に一関市の魅力を発信するイベントを何度も行ってきた。そんな千葉について勝部修一関市長は「一関市の情報を発進していく上で、千葉社長から得るところは非常に大きいですね」と語る。

地域自慢の和牛を最高の味に仕立てて発信する。千葉の熱い思いが地域を元気にする

地元集結!絶品ハンバーグ~和牛農家の未来は?

一関市で100年続く老舗の酒蔵「磐乃井酒造」。千葉の依頼により、ここであるものが作られていた。大きな釜で炊き上げられたのは、地元岩手のひとめぼれ。これを冷ましながら、麹菌をふって作り上げるのが、酒造りの元となる米麹だ。

「格之進」本店の作業場にやってきた千葉が、なにやらクリーム状のモノを熟成肉の塊に塗りはじめた。それが米麹から作った塩麹だ。「素材の甘みが引き立ってくるし、柔らかくなります」という。

ミンチにした肉に加えるのは、地元岩手の牛乳に、特注した国産のパン粉。千葉は地元の食材をふんだんに使ったハンバーグを作っているのだ。

そんなこだわりのハンバーグを売りにしているのが、六本木にある「肉屋 格之進F」。ランチの時間に客が一気に押し寄せる理由が、香ばしい塩麹のハンバーグランチのハンバーグプレート」が1000円と、価格もリーズナブルだ。

まろやかな塩麹が熟成肉のうま味を存分に引き出す、まさに絶品の味わいは、外国人客も絶賛する。千葉には大きな野望があった。それは地元岩手の美味しさが詰まったハンバーグで世界を目指すことだ。

ヨーロッパに行ってわかったのは、ハンバーグという料理がないこと。日本にとどまらず、海外に持っていくべきです」(千葉)

千葉はすでに動き出していた。大規模なハンバーグ工場の計画を進めているのだ。その建設予定地は千葉が通っていた門崎小学校。子供の数が減り、4年前廃校になっていた。

体育館を使ってハンバーグ工場を造りたい。肉の聖地みたいにして、ひとりでも多くの人にこの地域に来てもらいたいと思っているんです」(千葉)

いま、和牛生産者を悩ます深刻な問題がある。肉牛のもとになる子牛の価格が5年で7割も高騰しているのだ。一部のブランド牛をのぞけば、子牛を育てて売っても赤字になる場合があるという。

こうした厳しい現状にも、スタジオでの千葉は「チャンスはある」と力説した。

「牛だけでなく他の生産物もそうだと思いますが、生産者とコミュニケーションをとっていくとわかることがある。私は生産者を思想家であり哲学者だと思っているんです。考えたことや思ったことが、かたちになっていく。牛だったら牛の味になっていく。それぞれの生産者の皆さんが考えているのだから、消費者が生産者のそんな思いまで知るようになったら、誰に消費を通じて投資したいのか、そんな考えが芽生えてくると思うんです」

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