乳がん治療に光。15分の運動ががんに効くメカニズムが一部解明

 

乳がんを抑制した物質の正体

この結果を受けて研究者たちは、血清中のどの物質ががん細胞の増殖を抑制しているのかを追跡しました。すると、中強度の運動をするとエピネフリン(アドレナリンの別名)やノルエピネフリンというホルモンが健常女性でも乳がん患者でも血中に増加することを確認しました。そして、エピネフリンのシグナル伝達をブロックする物質であるプロプラノロールを運動後の血清に加えると、腫瘍増殖抑制作用が消失することを突き止めました。このことから、エピネフリンやノルエピネフリンが腫瘍増殖を抑制していることが間接的に示されました。

さらに研究者達はエピネフリンとノルエピネフリンが腫瘍増殖抑制を促進する遺伝子Hippoに作用すると主張していますが、そのデータは少しばらつきが多く微妙だと僕は判断しています。しかしその一方で、運動後の血清はいくつかの免疫細胞に存在する分子の発現レベルを高めたことから、Hippoだけの経路ではなくて免疫細胞の機能を活性化することで腫瘍増殖が抑制されている可能性もあります。

いずれにしても、運動後の血清にさらされた腫瘍細胞がマウスの体内に入るとうまく増殖できなくなるのは間違いなさそうです。

しかし、運動後のヒトの血清を腫瘍細胞に浸してマウスに移植、というのはいささか人工的なプロセスです。そこで研究者は「マウス自身が運動したらどうか?」と考えました。そして、マウスのケージに「回し車」を設置してみました。やっていることが可愛いですが、マウスに効率的に運動をさせるにはやっぱりあのクルクル回る車輪が効果てきめんです。

そして、回し車を与えられたマウスでは与えられなかったマウスと比較して、移植した腫瘍の増殖が40-60%ほど抑制されました。あっぱれ回し車! そしてさらに、エピネフリンやノルエピネフリンを直接投与することでも腫瘍増殖が抑制されることが分かりました。

以上のことから、少なくともマウスにおいては運動後に分泌されるエピネフリンやノルエピネフリンが乳がん細胞の増殖を抑制することがより生理的な条件で示されました。

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