温泉のプロが明かす、山の宿で必ず出てくる「川魚」の衝撃事実

 

鮎に関してはさらに期間が短く、おおむね6月から9月の3か月限定だ。

そう考えると、天然物が出てくるわけない、というのがわかるでしょう。

だが、これらの魚の中で、天然物が出てくる可能性がもっとも高いのは、実はなのである。 というのも、天然鮎は養殖鮎に比べて明らかに高値で取引され、また、それを漁協も知っている上、お客もお金を払うからだ。

特にブランドものの鮎の場合はそう。 具体的に言うと、岐阜県馬瀬川や、長良川水系の吉田川、四万十川、吉野川などである。 これらの川の天然鮎はびっくりするほど高価で、僕の知る限り、郡上八幡の店で天然鮎を食べると基本的には時価、大きさもバラバラ、塩焼きで15センチほどの鮎が3尾、もしくは20センチちょっとの鮎が1尾で3000円くらいする。

1泊2食1万5000円ほどの宿で馬瀬川の鮎を出す場合、通常は馬瀬川の水で養殖した鮎が供される。 天然鮎に変更した場合、最低でも1500円くらいは差額がとられるのが普通だ。 しかも地元の人はそれでも納得している。 なにせ味が全然違うからだ。 鮎は養殖と天然で露骨に味が違う香りも違う

だから鮎釣りが職業になるのであって、3か月、ほかの仕事をしないで、鮎ばかり釣っている名人のじいさんというのが大量に存在し、よって、型も数もある程度は確保できるわけである。

イワナやヤマメの場合は、それほど高価な値段では取引されないから、専門に釣る人が今やほとんどいないといってもいい。 その昔、秋山郷の職漁師をしていた古老の話を聞き書きしたものを読んだが、2、3日で100尾以上釣り(むろんその間は野宿)、魚を詰めた一斗缶を背負って、真夜中、熊に用心しながら10時間以上歩いて、湯田中あたりの宿に卸したということが書かれていた。 今はそんなに釣れることもないし釣る人もいない。 ほかにもっと安定して収入を得る手段があるからだ。

こうした山の宿で天然魚が出てくるとしたら、たいていは宿のオヤジさんあるいは引退したじいさんが釣り名人で、宿も民宿のような小さな宿、おおむね10室未満、というところに限られてくる、ということになる。

淡水魚ではコイ料理というのもおなじみだ。 これも天然であるのは漁獲が安定していて需要のあるところ、例えば宍道湖など湖くらいしか浮かばない。

その昔、漫画『美味しんぼ』で千曲川の素潜り漁の穫りたてコイ料理のことが書かれていたが、僕はこれもかなり眉唾だと思っている。 というのも天然のコイの場合、よほど清冽な水域で穫れたものでない限り、数日間は湧き水などの池で泥を吐かせないと相当にキツいことになるからである。

ま、コイの洗いを食べてまずいと思ったら、天然魚の可能性もある、ということかもしれない。 でも、きちんと泥抜きをしたコイの洗いは、酢みそではなく、わさび醤油やショウガ醤油で食べてもすごくうまい。

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