「年金廃止」を訴える専門家は、発言の重大性を認識しているのか

 

ちなみに、所得比例一本の年金は、昭和29年までの厚生年金はそうだったんです。共済年金も昭和48年になるまでは所得比例一本だった。でもそれだと、所得が高い人が勝つ制度になっちゃうから、厚生年金は昭和29年改正の時に最低保障の部分として、「定額部分」という加入に応じて年金額が変わる年金を導入し、その上に所得比例(報酬比例部分)の年金を乗っける形となりました。

この二段階の形は今も受け継がれています。定額部分は昭和60年改正で廃止されて、代わりに国民年金の基礎年金が支給されてその上に厚生年金や共済年金が乗っかる形になっています。だから毎回くどいですが、厚生年金加入してようが共済組合加入してようがみんな同時に国民年金に加入しているんです。よって、ずっとサラリーマンや公務員だったけど…みたいな人も国民年金から基礎年金が65歳から支給される。

ちなみに、65歳前にまだ定額部分が経過措置として支給されてる人もいます。これから発生する人もいますし。特に女性は。65歳になったら定額部分は消えて、国民年金から基礎年金が支給され始める。

厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)

この加入比例の部分(定額部分)は当時は60歳以上の生活保護基準(2級地)を参考に定められたものでした。この昭和29年改正時に所得比例なんてやめて、定額部分だけにしてほしい! って言って反発したのが経営者団体。会社は退職金のお金も出してんのに、所得比例の年金は保険料負担も大きいし要らない! っていうのが理由でした。厚生年金保険料は事業主と労働者で折半して支払わないといけないからですね。でも加入期間だけに比例して年金額が決まる定額部分だけにして年金保険料は所得比例で取っちゃったら不公平ですよね。

共済年金も所得比例のみという形をやめたのは、昭和50年代から官民格差の是正の声が強くなってきたから。共済年金は厚生年金よりもかなり給付は高かったんです。それに厚生年金は60歳支給だけど共済は55歳支給とかですね。

また当時の国鉄共済組合(今のJR)に関しては事実上年金が破綻していた。国鉄だけでの自力では年金が支払えない危機に陥ったんです。国鉄は財政が逼迫しすぎて昭和59年に国家公務員共済組合連合会に統合されて連合会から2,000億ほどの支援を受けたり、厚生年金からも総額1,500億円くらいの支援を受けて財政を立て直し、その後平成9年に日本たばこ産業(JT)や日本電信電話共済組合(NTT)と共に厚生年金に統合されて今に至ります。

なぜ国鉄が財政逼迫したのかというと、年金額を優遇しすぎてたのも原因ではありますが、戦中、戦後に輸送力強化のために大量雇用した職員(約50万人くらいいた)が昭和40年代に一気に退職し始めて、また、自動車交通の発展などで鉄道産業が衰退し始めて職員も20~30万人くらいになったから。つまり被保険者より受給者が遥かに多くなってしまった

共済組合は独自で年金給付ができるメリットはありますが、その産業が衰退した時に財政が逼迫する欠点があります。農林漁業団体共済組合も昭和34年1月に厚生年金から抜け出して共済組合を作ったけども、結局財政が悪くなって平成14年4月に厚生年金に舞い戻ってきた。

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